2010年11月12日金曜日

自分の姿が相手に反射する-共鳴のリーダーシップの構想(2)

最近の若い社員は元気がないとか主体性がないとかいう企業人が多いが、実は自分の姿の反射を見ているのではないだろうか。相手によって胸襟の開き加減が違うという清水良典氏の発言[1]や、教える授業は潜在的に主体性のある学生を受け身にさせるという木川田一滎教授の問題提起[2]とも共通点があるようだ。

最近の若い社員は元気や主体性がないという企業人の嘆きをよく聞く。昔はみんな勇んで留学や外国駐在に出かけたのに、どうしたのかというのである。大学教員もまったく同じように嘆いているのだから、本当に日本の若者は元気がなくなったのかと思ってしまう。ここで大学の教育が悪いとか家庭の育て方に問題ありだとかと評定するのではなく、元気がないという人自身に原因があるとは考えられないだろうか。

大学で教えていると、確かに最近の学生はまじめに授業に出てくるし、おとなしいという印象を受ける。居眠りするくらいなら下宿でゆっくり寝てればよいのに、と授業をさぼりまくった自分の青春時代と比較してしまうのである。しかし、この9年ほど大学対抗交渉コンペティションを運営してみて、学生が物事に取り組む強い意欲と進化の早さに圧倒され続けているのもまた事実である[3]。コンペティションの審査員として協力してくださっている企業や法曹の人々も、ほとんどが最近の学生はすごい、日本の未来は明るい、学生にパワーをもらったという感想を寄せられている[4]。これはどういうことだろうか。

発想の転換とは、自分の態度が相手に影響を与えているのではないかと気づくことである。自分の姿が相手に反射するといったのはこの意味である。しかし、イケイケドンドンの企業人はここで異議を唱えるだろう。「わたしは上司にも堂々と意見を言ったものだ。君たちも頑張れ」と励ますのだが、いっこうに効果がないと。ここで相手の立場に立って考えて欲しい。元気な上司に「言いたいことがあれば何でも言ってみなさい」と言われて発言したら飛ばされたというコマーシャルもあったくらいなのだから。

それでも「僕の若い頃は上司に直言したものだ」という社長がおられたら、それは自慢なのか上司に恵まれていたのか、それとも上司を含めて運がよかったのかもしれない。つまり、希有な例だったかも知れないのである。希有な存在ならば、会社もたまたまその社長の下で元気になるだけだろう。しかし、運にまかせるだけでは組織や社会の持続可能な活力は生まれてこない。大勢の若者が元気な力を秘めているとすれば、教育によって潜在的な力を引き出すことを考えるべきではないだろうか。

発想の転換の参考になるのが、木川田一滎教授が試みられているワークショップ型の授業である。木川田メソッドの基本的発想は、学生はもともと主体的に考え、発言し、行動する力があるのに、教える授業によって彼らを受け身にさせてしまっているというものである[5]。木川田教授は、知識や経験のない人に教えてやろうという「講義」ではなく、若い知を育むワークショップ型授業を実践しようと呼びかけられている。木川田式ワークショップを見学して、確かに学生の主体性を引き出すことができると実感した[6]。もっとも必要なのは、教師が態度を「Change」することである。あとは、少々の訓練と創意工夫で学生の主体性を表に出すことができる。若者の元気を奪っているのは、上司の「講義」なのである。

自分の態度が相手に影響を与え、相手の態度が自分にはね返ってさらなる態度を形成する。相手がよい態度をとってくれれば、それは自分だけではなく、相手の周りにも影響を与え、組織や社会を活性化していく。これが「共鳴のリーダーシップ」の基本的な発想である[7]。このようなリーダーシップの考え方は、東洋的な思惟[8]や仏教思想[9]に親近性があると思う。われわれは、「ハーバード」のリーダーシッププログラムで使われる米国や西欧の例ではなく、われわれに身近な例やケースを集めて、確固たる方法論を築きあげていきたい[10]。われわれが世界に誇れるリーダーシップ教育を行い、世界のルールやスタンダードの形成にリーダーシップを発揮していくためには、大学の同僚[11]や学生だけではなく、リーダーシップに関心のある日本のあらゆる人々と連携し、共に学んでいく態度がもっとも大切であると考えている。


[1] 「しかし共通して、相手によって胸襟の開き加減がはっきり区別できる点が面白い。音楽家のセッションにも似て、波長の合った相手とは、気さくな肉声や驚くような裏話も飛び出してくるのだ。」日本経済新聞 2010111日(月)20面参照。
[2] 後述参照。
[3] 交渉コンペティションについては、つぎのホームページを参照。
[4] 交渉コンペティションのホームページには審査員のアンケート結果の概要が掲載されている。
[5] 授業の趣旨はつぎのブログを参照。
[6] 教員から見た授業の様子はつぎのブログを参照。http://nomurakn.blogspot.com/2010/11/blog-post.html
[7] 共鳴のリーダーシップの構想(1)については次のブログ参照。
[8] 西欧的思惟は議論の積み重ねだが、日本では辛気くさいと感じられる。これに対して論語や老子などは、箴言集のようなものだ。孔子が「仁の実践は自己の努力に由来するので、他人に頼って仁を実践することなどはできない。」と言われると、優秀な弟子の顔淵は「私は愚鈍な人物ではありますが、先生の言葉を実践させて頂きたいと思います(回、不敏と雖も、請う、斯の(この)語を事とせん)」と応えるのである。しかし、筆者は東洋的思惟に体系的思惟がないとは考えないし、また、「子曰く」だけではなく西欧的な議論の習慣も必要だと思う。「東洋的思惟と西欧的思惟の対決」参照。
[9] たとえば法然上人はいかに育てられたかについて、つぎのブログ参照。
[10] このブログやTwitter http://twitter.com/nomuraknもそのような試みの1つである。また、野村美明「ARTとしてのリーダーシップ-対話による実践知の言語化」『国際公共政策研究』1411頁以下(2009)も少し学問的な第一歩である。特定非営利法人グローバルリーダーシップ・アソシエーション(GLEA)のホームページには、「リーダーシップ実践知データベース」の例が掲載されている。http://www.npo-glea.org/jigyo/db.html
[11] 大阪大学では学生のためにグローバルリーダーシッププログラムを提供しており、また異分野の教員が集まって日本に適したリーダーシップ理論と教育方法を研究している。

2010年11月3日水曜日

授業風景 若い知を育むワークショップ型「考える」模擬授業

10月27日(水)に木川田一滎教授による「若い知を育むワークショップ型『考える』の模擬授業が行われた。授業風景を紹介する。受講者による解説付き写真集が12月の中旬には完成する予定である。



Ⅰ. ワークショップの流れ

つぎの【スライド1】のように、①共同化→②表出化→③結合化→④内面化と進む。今回は結合化のアイディア共有(チーム発表)を見学した。ここでは、②のアイディア創出の場面までをお見せする。

なお、以下の2枚のスライドは木川田一榮教授が講義のために作成されたものであり、このブログとグローバルリーダーシッププログラムのホームページへの転載許可を受けている。


【スライド1】 Kazワークショップの流れ



Ⅱ. 講義の心得十ヶ条より


【スライド2】


【写真1】は【スライド2】の第二条「授業への参画意識を高める(Vayage Quiz)」の風景である。クイズの問題は、「知人を何人たどれば米国大統領Barack Obamaにたどりつくことができるか」である。


【写真1】 世界は今:Vayage Quiz !!!



クイズの答えは2人。【写真2】は木川田→ゼロックス元CEOのAnne Mulcahy→そしてオバマ大統領を示している。


【写真2】木川田、Anne Mulcahy、Obama



Anne Mulcahyから創造的グローバル企業のヒアリングの話となる。これは【スライド2】第九条「実際のエピソードを物語る」。


創造的グローバル企業のヒアリングにおいて木川田教授がもっともよく耳にしたキーワードは何か?。答えはInnovationとCollaborationである。ここでワークショップの第1のテーマが紹介される。

InnovationとCollaborationを引き起こすためのリーダーシップの重要要件とは何か?

このテーマは、ワークショップの第2のテーマ、「個」として世界を観るにつながる。参加者は、①私たちを取り巻く環境の課題認識とは何か(現在・10年後)を前提に、②求められるリーダーシップの要件とは何か?を考えることを求められる。


【写真3】 参加者がブレーンストーミングを行っている間に、教員に対する説明が行われた。


【写真3】の右上には第2のテーマのスライドが映っている。


【写真4】 教員らの背景ではブレーンストーミングが続いている。




【写真5】 求められるリーダーシップとは何か。アイディアの創出が続く。




Ⅲ.木川田式ワークショップ型授業は学生のよいところを引き出す

ワークショップは、【スライド1】のチーム発表によるアイディア共有まで進んだ。参加者がチームのアイディアをまとめるの時間は20分程度と短かったが、どのチームも①私たちを取り巻く環境の課題認識に基づいた②リーダーシップの要件をしっかり述べていた。また、プレゼンテーションにも創意工夫がされており、活発でわかりやすく好感が持てた。

授業の目標で述べられたように、木川田式ワークショップは、学生の主体性を引き出す効果があると思った。「最近の学生」は主体性がないのではなく、主体性が表に出ていないだけなのである。

Twitterに大学対抗交渉コンペティションでみる元気な若者像を紹介したが、ここでも同じことが言えそうである。

最近の若者は元気がないとか主体性がないとかいう企業人や教員が多いが、実は自分の姿の反射を若者に見ているだけなのではないだろうか。