第6ポイントをつぎのように説明した。
6 確約(コミットメント)の仕方を工夫する
○こちらが何をするかを明確に示す。
○相手に何をしてほしいかを明確に示す。
以下では、例を補足しながらコメントする。
Fisher [1991]は、確約の例として、人を雇いたいときに、こちらから明確なオファーをして、相手がイエスといえば合意成立という状態にすることをあげた。交渉の授業では、日本の次の例を用いることがある。
開発事業で立退を拒む地権者の家に出かけて目の前でテーブルの上に札束を積み上げると、ほとんどがイエスという。
太田勝造先生があげられている「背水の陣」もわかりやすい。背水の陣で味方に決死の覚悟をさせて敵を破った『史記』の逸話である。太田勝造「交渉のゲーム論」太田・野村[2005]139頁。自分が特定の選択肢にコミットしたことを相手に明確に伝えるようなコミットメントのことを、「信用できるコミットメント」(credible commitment)という。
学生には、メールの例がわかりやすい。相手にメールを読んでもらい、返信してもらうためにはどう書けばよいかを練習するのである。
メールを書くときに、イエスかノウか、○か×かで答えられるように工夫すると、返答率が高いのもコミットメントのテクニックの応用である。「ワンクリック詐欺」はこれが悪用された例である。
こちらの交渉力を高めるためには、相手が「信用できるコミットメント」を提示すればよいだ。こちらのコミットメントで相手が動くのは、コストベネフィット分析の応用としても説明できる。つまり、相手の費用を下げ効用を上げるのである。通常は効用を上げるより費用(時間、労力)を下げる方が簡単である。これはメールの書き方に応用できる。反対に、メールを例にして交渉を教えることも可能だ。
参考文献
1.Fisher, Ury & Patton, Getting To Yes (Penguin, 2d ed., 1991)(Fisher [1991])日本語訳:金山宣夫、浅井和子訳『新版ハーバード流交渉術』(ティービ-エス・ブリタニカ、1998)
2.太田勝造・野村美明編『交渉ケースブック』(商事法務、2005年)(太田・野村[2005])