2013年5月14日火曜日

バルコニーに上がれ(go to the balcony) ハイフェッツからユーリーへ


ハーバード流交渉術のユーリーは、1991年の著書で「バルコニーにあがって」困難な交渉を眺めよと書いた。ハイフェッツの著書が世に問われる1994年以前に、ユーリーが同僚のハイフェッツの講義から引用したのだ。最近は近所がテロで騒がしいが、ハーバードの知的環境はうらやましい。

1991年の著書とは、William Ury, Getting Past No  Negotiating with Difficult People[1]NOと言わせないためには-難しい人達との交渉法)である[2]。ややこしいのは、同じ1991年にバンタムブックスから出版されたハードカバー版が、1993年にペーパーバック版になった際に改訂されて、William Ury, Getting Past No  Negotiating in Difficult Situations[3]NOと言わせないためには-難しい状況での交渉法)となったことである。

バンタムブックスのペーパーバックでは、書名の副題が「難しい人達との交渉法」から「難しい状況での交渉法」に変わった。しかし、コピライトの頁(タイトルページの裏)やユーリーの2006年付の著者注では書名はGetting Past Noと表示されており、改訂版であることはタイトルページにしか明示されていない。ちなみに、ランダムハウス/ビジネスブックスのペーパーバック[4]では、副題は従来通り「難しい人達との交渉法」となっている。

バンタムブックスのペーパーバックで副題「難しい状況での交渉法」を含む改訂がされたことは、1992年のユーリーによる「ペーパーバック版への著者注」に説明されている[5]「難しい人達との交渉法」という副題では、この本が難儀な性格の相手方との交渉法に関するものだという誤解を読者に与える。しかし、困難な交渉では、お互いが相手を難しいと思ってしまうことが問題なので、「難しい状況」に重点を置いたのだという。しかし、現在入手できるペーパーバックでは、前述の著者注は2006年付けで「著者注 15年後」[6]に変更されていて、現在でも販売されている従来の「難しい人達との交渉法」の副題が付いた版と改訂版との違いはどこにも説明されていないのである。

どのような事情があるのかはわからないが、内容の異なる複数の版が識別困難な紛らわしい書名で発行されているというのは、著者の良識を疑わせる。ある程度エエ加減なところがないと交渉の大家にはなれないということなのかもしれない。


[1] 現在はつぎのペーパーバックが入手可能である。Business Books (Random Century Group),1992,ISBN-10: 0712655239,ISBN-13: 978-0712655231, pp.2,17 and 157.
[2] 翻訳は、ウィリアム ユーリー (), William L. Ury (原著), 斎藤 精一郎 (翻訳)『【決定版】ハーバード流“NO”と言わせない交渉術』単行本(ソフトカバー)三笠書房 (November 27, 2010)ISBN-10: 483795717XISBN-13: 978-4837957171、ウィリアム ユーリー (), William L. Ury (原著), 斎藤 精一郎 (翻訳)『決定版 ハーバード流“NO”と言わせない交渉術』 (知的生きかた文庫) [文庫]三笠書房 (May 1995)ISBN-10: 4837907377ISBN-13: 978-4837907374
[3] 次のペーパーバックが入手可能である。Bantam Trade Paperback reissue, March 2007, (1991, 1993), ISBN: 978-0-553-37131-4 (0-553-37131-2).
[4] 前掲注(1)28刷、(2012)
[5] Bantam Trade Paperback ed, February 1993 (1991,1993), “Author’s Note to the Paperback Edition” at ix dated June,1992. See http://www.randomhouse.com/book/182088/getting-past-no-by-william-ury/9780553371314/ (last visited May 14, 2013).
[6] “Author’s Note, Fifteen Years Later” at ix-xii, 前掲注(5)

2013年5月13日月曜日

私立探偵っておかしくない?


研究会の内容と関係ないことでへーそうなんだと思ったこと。私立探偵。公立の探偵っている?原語はprivate detective。私立刑事なのだ。米国では州から逮捕権を与えられたprivate police私立警官もいる。反対に、18世紀のロンドンには組織化された警察はなかった。
https://twitter.com/nomurakn/status/63857963156246528


「いつも当然と思っているものがよく考えるとおかしいことがある」という趣旨で2年前にツイートしたのだが、どこの研究会で気がついたのか忘れてしまった。この日の午後は第15回リーダーシップ教育研究会に参加したことになっているのだが。ちなみに「探偵」というのは法律用語になっている[1]

18世紀のロンドンには組織化された警察はなかったという話は、P. S. Atiyah, The Rise and Fall of Freedom of Contract,(Oxford,1979)で読んだ[2]。大学院のスクーリングである。そこで、私立警官かガードマン(法律用語は、警備業者・警備員[3])が警察機能を担ったと知って、警察というのはお上のものという意識は絶対的なものではないことに気がついたのであった。


[1] 探偵業の業務の適正化に関する法律(平成十八年六月八日法律第六十号)。
[2] 要約は、次を参照。矢崎 光圀  監修「イギリス契約法史の一潮流--アティアの近著に依拠して-3-」阪大法学127237238頁参照。ネットでは引用しかみられないのが残念。http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I2549296-00?ar=4e1f
[3] 警備業法(昭和四十七年七月五日法律第百十七号)。