2023年10月18日水曜日

世界最先端のリーダーシップ教育への挑戦

 「世界最先端のリーダーシップ教育への挑戦」『産業能率』2020.7-8夏季号,2-3頁

大阪大学特任教授(名誉教授) 野村美明


大阪大学では、国立大学としてはめずらしくリーダーシップ養成のためのプログラムを提供している。国際公共政策研究科のグローバルリーダーシップ・プログラム(以下「GLP」という)である。GLPは、大学だけでも企業だけでも優れたリーダーは育てられないという考えから、志ある企業とパートナーシップを組み、企業や社会で必要とされる変革のためのリーダーシップの教育に挑戦している(http://www.osipp.osaka-u.ac.jp/leader/)。

GLPの1つの特徴は、企業や政府、NPOなどで活躍するリーダーをゲストスピーカーにお招きして、学生に本物から学べる機会を提供している。しかし、なんといってもGLPの最大の特長は、授業の運営を受講生に任せることで、学生がお客様ではなく自ら動いてリーダーシップを体験する世界でも有数の場を提供していることだ。教員は学生が自らやってみるための舞台を作り、学生が舞台上でスポットライトを浴びるのである。

1学期の間に受講生らがチームを組んで、ゲストや企業担当部署とのメール連絡、ファシリテーター、ホワイトボード、マイク回し、講義録議作成など、様々な役割を分担する。15回以上の授業の運営にあたると、あるときはディスカッションや質疑のクオリティーが高くてゲストや受講者が感激し、またあるときはみんなが欲求不満を感じる失敗例も生じる。成功体験と失敗体験を緊張感を持って繰り返し学べるのである。

興味深いことに、1学期を通じて学生を観察していると、実際の社会のリーダーシップについていわれているようなことが教室でも起こっていることがわかる。

ファシリテーターは、ゲストのプレゼンテーションを受けて受講者に発言を促し意見を引き出す責任を負っているが、自分をよく見せようとする気持ちが強いと、受講者の反応は目に見えて悪くなる。私心を捨てられないリーダーにはみんな気持ちよくついていけないのである。

1学期を通じてリーダーシップ力が格段に伸びる受講者とそうではない学生がいる。伸びない学生の多くは、メール連絡やマイク回しを「雑用をやらされている」と不満を言う。反対に、伸びる学生は、雑用を「率先垂範」し、「あきらめない」で「クレーマーにならない」で「責任を果たす」のである。

こんなところにも、社会で尊敬されるよいリーダーシップに見られる重要な要素が働いているといえよう。リーダーシップは教室で学べないというのは誤解である。大学も企業も、教室は多様な価値観や考え方に満ちた社会のミクロコスモスなのだということに気づいていないのである。

プログラム創設から13年、リーダーシップの実験室から社会に出て行った志の高い若者達が教員として大学に戻ってきている。残念ながら日本の大学ではリーダーシップの専任教員はまだ雇えないが、薄給の非常勤講師や無給の支援者として、社会を変える意欲を持った学生を育てたいというのだ。大学と社会との間でリーダーシップ養成のためのサイクルを回すことは、世界のトップスクールでもいまだ実現できていない。日本の文系学部でも、未来に向けた世界最先端の教育への挑戦がはじまっているのである。