今日と昨日は秦野の上智大学セミナーハウスで、交渉コンペティション(以下では「交渉コンペ」)[1]の第1回リーダーズキャンプがあった。15大学(オーストラリアだけが不参加)から2人ずつの代表が参加して、12月4日と5日の本番に向けてより効果的な準備方法を各大学に持ち帰ってもらおうという趣旨である。参考資料は交渉コンペの公式ホームページに掲載する予定である。
昨日の第1日目は、静岡家裁の樋口正樹裁判官によるディベート実技。2つのチームが対戦し、他の2つのチームがジャッジとなる方式を、それぞれ肯定否定を入れ替えて2回実施した。事例問題の論点について討論するところがゲームディベートより仲裁や訴訟に近い。交渉コンペで採用している方法をより簡易にしたものである。この方法は交渉コンペの効果的な練習になるのはもちろん、法律学の授業でも使えそうだ。
2日目の今日は、交渉コンペの運営委員から仲裁、交渉のそれぞれのラウンドの審査基準の説明と過去問の分析が行われた。仲裁と交渉の相違がきちんと理解できていないと練習できないという太田勝造東大教授からの指摘があった。常に定義の大切さを強調しているわたしとしても我が意を得たりである[2]。
太田教授によれば、ウィンウィン・ソルーションとは折半することではなく、パイを大きくすることである。だから和解における互譲(民法695条)もウィンウィンではないと岡田幸宏同大教授。次のゲームで説明してみよう。
姉妹が1個のオレンジを「これはわたしのものよ」と取り合っている。オレンジの価値が10だとすれば、姉がオレンジをとり、妹が失うとすれば+10と-10で足すと総和は0となるから、これはゼロサムゲーム。オレンジを折半すれば、それぞれ+5と+5を獲得するから合計は10となり価値は変わらない。
ところが姉が本当に欲しいのはケーキ用の皮で、妹は実を食べたいだけだったとすれば、2人で皮と実を分ければ双方共に+10と+10を獲得できるから、価値の総和が20になる。つまりこの解決方法がパイが大きくなったからウィンウィン・ソルーションである。これは交渉力を高める7つのポイントの「3.双方にとって有利な選択肢(オプション)を考え出す」であった[4]。
リーダーズキャンプの最後に参加者に「役に立ちましたか。来年もやって欲しいですか」と質問した。最初の質問はわたしにとってもイエスである。交渉やディベートや国際取引法の演習だけではなく、現在計画中の問題解決の授業をデザインするためにも、大変勉強になった。しかし、来年もやって欲しいという声が(無理強いを含めて)圧倒的だったが、交渉コンペの運営委員が第2回目を企画できるかどうかは自信がない。
教育の目的や効果と関係なく、ますます多忙になる大学教授である。森下哲朗上智大教授らのエネルギーを持ってしても、日本の大学の置かれた状況は余りにも厳しい。政策の貧困により、日本の大学は100年かけて蓄積した知的資産を食いつぶしつつある。教員や大学の自助努力を超えている。政府はまったくあてにできない。日本から世界に通用する交渉者やディベーターを輩出するために、交渉コンペのOB・OGや支援者の助力を期待したい。