2010年9月5日日曜日

多元社会における熟議の機能-サンデル教授に学ぶ

サンデル教授に学ぶ正義論の5日間のセミナーが昨日終了した。沢山の切り口を発見できたが、来週の実践法教育研究会に向けてどうまとめるか。

最近の政治状況では、菅直人首相がいう熟議による民主主義が重要だ。「国民が政治に参加するため、全員参加の政治、熟議の民主主義が必要だ」(92日民主党代表選の小沢一郎氏との討論会)。この発言は論理的ではないが結論はよい。多元社会で対立する価値観にどう折り合いをつければよいか。サンデル教授の例では、同性婚を認めるかどうか。参加と熟議がキーワードとなる。

意見の対立は、結婚の目的についての価値観の対立に起因する。生殖派、同意派と愛のきづな派、どれが正しいのか。私的な会話では相手の意見を尊重してそっとしておくことも選択肢である。しかし公共の問題は中立では解決できない。たとえば同性婚なら、それを国家が認めるか否か、それに法的保護を与えるべきかどうかが問題なのだ。

サンデル教授によれば、道徳的価値が対立する場面で相手を尊重するとは、相手を無視したりそっとしておくことではない。尊重するとは、相手を巻き込み参加させることである。対立する相手と深い議論を重ねて続けることで、ある場合には自分の意見を修正し、ある場合にはそれを補強することになる[1]。異なる意見に耳を傾けそこから学ぶ過程で、なにが正しいのかが見えてくるかも知れないというのである。

熟議(deliberation)による政治というだけであれば、伝統的な議会制民主主義が目指してきたことと変わらない。サンデル教授は、困難な問題について、なにが善いことなのかをみんなでよく考えること、みんなで熟議すること(public deliberation)を提唱する。英語の先生や政治学の先生には「間違っています」と言われるかも知れないが、サンデル教授の言葉を大阪弁でつぎのように表現してみよう。

困難な問題を人のせいにする政治(a politics of avoidance)ではあかん。なにをやらなあかんかをみんなで考えていく政治(a politics of moral engagement)のほうが理想として元気が出るやん。そのほうが正しい社会の基礎をつくっていけるんと違うやろか。


[1] ソクラテスやプラトンの対話の伝統に則っている。2010719日月曜日 紛争、交渉、討論、対話、議論http://nomurakn.blogspot.com/2010/07/blog-post_19.html参照。また、さまざまな角度から熟慮を重ねて均衡点に達するという方法は、ロールズの反省的均衡(reflective equilibrium)の方法である。

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