2011年7月31日日曜日

平泉-アテルイから芭蕉まで-802年~1689年

NHKで藤原清衡の中尊寺落慶供養願文(1126)の画像が流れたが、「蛮夷は善に歸し」が読まれなかった。「征夷」大将軍坂上田村麻呂による802年アテルイ降伏から前九年・後三年の「役」の歴史の無視。頼朝による奥州征伐(1189)により、兵どもが夢の跡(1689芭蕉の旅)となる。20110731改訂済 http://twitter.com/#!/nomurakn/status/97582029343956993

802年、蝦夷の指導者アテルイは、「征夷」大将軍坂上田村麻呂に降伏した。その後、前九年の「役」(10511062年)および後三年の「役」(10831087年)を経て、中尊寺が建立されたのである。
天治3年(1126清衡により奉納されたと伝えられる落慶供養願文[1]には、つぎの言葉がある[2]

「官軍と夷虜の死の事、古来幾多なり」、「精魂は、皆他方の界に去り、骨は朽ち、猶もって此土の塵となる。鐘の聲(ね)の地を動かす毎に、冤霊(えんれい)をし て、浄刹(じょうさつ)に導かさしめん。」
[官軍の兵に限らず、エミシの兵によらず、古来より多くの者の命が失われました。・・・命あるものたちの御霊は、今あの世に消え去り、骨も朽ち、それでも奥州の土塊となっております。この鐘を打ち鳴らす度に、罪もなく命を奪われしものたちの御霊を慰め、極楽浄土に導きたいと願うものであります。]

「蛮夷は善に歸(帰)し、 豈(あに)、諸佛、摩頂の場に非ずや。」
[エミシも仏善に帰依することになり、まさに、この地は、諸佛の功徳を直に受けることができる場[3]というべきではないでしょうか。]

1185年(文治元年)壇ノ浦の戦いで平家滅亡。1187年源義経平泉に亡命。同年藤原秀衡(藤原氏三代)死去。1189年(文治5年)、義経は藤原泰衡に襲われ自害。同年、頼朝の奥州攻め。奥州藤原氏滅亡[4]

芭蕉は1689年に奥の細道の取材のために、この地を訪れた。奥の細道からの引用[5]

三代[6]の栄耀(えいえう)一睡(すゐ)の中にして、大門のあとは一里こなたにあり。秀衡(ひでひら)が跡(あと)は田野に成りて、金鷄山(きんけいざん)のみ形を残す。先づ高館(たかだち)にのぼれば、北上川南部より流るゝ大河なり。衣川(ころもがは)は和泉(いづみ)が城(じやう)をめぐりて、高館の下にて大河に落入る。康衡(やすひら)等が旧跡(きうせき)は、衣(ころも)が関(せき)を隔(へだ)てて南部口(なんぶぐち)をさし堅め、夷をふせぐと見えたり。偖(さて)も義臣すぐつて此の城にこもり、功名(こうみやう)一時の叢(くさむら)となる。国破れて山河あり、城春にして草青みたりと、笠うち敷(し)きて時のうつるまで泪(なみだ)を落し侍りぬ。
  夏草(なつくさ)や兵(つはもの)どもが夢(ゆめ)の跡(あと)

卯(う)の花(はな)に兼房(かねふさ)みゆる白毛(しろげ)哉(かな) 曾良


[1] 中尊寺のホームページで一部の画像がみられる。「文化財の紹介」「紙本墨書中尊寺建立供養願文(重要文化財 建武3年(1336))」によれば、「失われた原本は藤原敦光が起草し、藤原朝隆の筆と伝える。嘉暦4年(1329)の奥書と端書のある輔方本と「鎮守大将軍」の奥書のある顕家本がある。顕家本は延元元年(1336)、北畠顕家19歳の筆になる。」という。中尊寺大長寿院蔵。http://www.chusonji.or.jp/guide/culturalassets/index.html
[2]中尊寺落慶供養願文、平泉研究家の佐藤弘弥氏による編集・読み下し文および現代語訳から一部修正のうえ引用した。
[3] 中尊寺ホームページ参照。http://www.chusonji.or.jp/guide/about/index.html
[4]斉藤利男『奥州藤原三代-北方の覇者から平泉幕府構想へ』(2011年)による。
[5] テキストは次のj-textsのサイトから引用した。http://www.j-texts.com/haikai/okuno.html
[6] 藤原清衡、基衡、秀衡の三代。

2011年7月25日月曜日

想定できなかったといえばまた危機は起こる

この危機は回避できた。人間の作為、不作為と誤った判断の結果なのだ。「最大の悲劇は、この危機の到来を誰も予測できず、従ってなにもできなかったという常套句を受け入れてしまうことだ。これを受け入れたなら、それはまた起こるだろう。」米国金融危機究明委員会『金融危機の原因報告書』より。
http://twitter.com/#!/nomurakn/status/89977520199434240

ここで想定できなかったといわれているのは、東日本大震災での福島第1原発事故のことではない。20089月のリーマン・ブラザーズの破綻が引き金となって起こった、世界的な金融危機のことである。合衆国の金融危機究明委員会による『金融危機の原因報告書』がいうように、だれも想定できなかったということを認めたら、また危機は起こるのである。

この報告書の原題は、The Financial Crisis Inquiry Commission, The Financial Crisis Inquiry Report (2011)であり、つぎのURLからダウンロードできる。
http://fcic.law.stanford.edu/report

2011年7月3日日曜日

 種蒔く人のたとえ-聞くには聞くが悟らず

わかりやすく伝えるには工夫がいる。キリスト教や昔の仏教は文化も言葉も違う何億という人々に伝えたのだから、コミュニケーション力の源泉だ。イエスは「見ても見ず聞いても聞かず、理解できない」人にはたとえで話した。人は実際に見ていても見たいことしか見えず、聞いていても聞きたいことしか聞こえていない。「種を蒔く人」は神の言葉でさえも良い土地に蒔かないと実を結ばないという譬えだ[1]

聖書の該当部分の前後を、日本語と英語で引用しておこう。おまけに、ポールサイモンの詩の一部も。

マタイによる福音書

13:01その日、イエスは家を出て、湖のほとりに座っておられた。 13:02すると、大勢の群衆がそばに集まって来たので、イエスは舟に乗って腰を下ろされた。群衆は皆岸辺に立っていた。 13:03イエスはたとえを用いて彼らに多くのことを語られた。「種を蒔く人が種蒔きに出て行った。13:04蒔いている間に、ある種は道端に落ち、鳥が来て食べてしまった。 13:05ほかの種は、石だらけで土の少ない所に落ち、そこは土が浅いのですぐ芽を出した。 13:06しかし、日が昇ると焼けて、根がないために枯れてしまった。 13:07ほかの種は茨の間に落ち、茨が伸びてそれをふさいでしまった。13:08ところが、ほかの種は、良い土地に落ち、実を結んで、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍にもなった。 13:09耳のある者は聞きなさい。」 13:10弟子たちはイエスに近寄って、「なぜ、あの人たちにはたとえを用いてお話しになるのですか」と言った。 13:11イエスはお答えになった。「あなたがたには天の国の秘密を悟ることが許されているが、あの人たちには許されていないからである。 13:12持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。 13:13だから、彼らにはたとえを用いて話すのだ。見ても見ず、聞いても聞かず、理解できないからである。 13:14イザヤの預言は、彼らによって実現した。『あなたたちは聞くには聞くが、決して理解せず、見るには見るが、決して認めない。 13:15この民の心は鈍り、耳は遠くなり、目は閉じてしまった。こうして、彼らは目で見ることなく、耳で聞くことなく、心で理解せず、悔い改めない。わたしは彼らをいやさない。』 13:16しかし、あなたがたの目は見ているから幸いだ。あなたがたの耳は聞いているから幸いだ。 13:17はっきり言っておく。多くの預言者や正しい人たちは、あなたがたが見ているものを見たかったが、見ることができず、あなたがたが聞いているものを聞きたかったが、聞けなかったのである。」 13:18「だから、種を蒔く人のたとえを聞きなさい。 13:19だれでも御国の言葉を聞いて悟らなければ、悪い者が来て、心の中に蒔かれたものを奪い取る。道端に蒔かれたものとは、こういう人である。 13:20石だらけの所に蒔かれたものとは、御言葉を聞いて、すぐ喜んで受け入れるが、 13:21自分には根がないので、しばらくは続いても、御言葉のために艱難や迫害が起こると、すぐにつまずいてしまう人である。 13:22茨の中に蒔かれたものとは、御言葉を聞くが、世の思い煩いや富の誘惑が御言葉を覆いふさいで、実らない人である。 13:23良い土地に蒔かれたものとは、御言葉を聞いて悟る人であり、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍の実を結ぶのである。」

マルコによる福音書 第4章(CHAPTER 4)

4:1イエスはまたも、海べで教えはじめられた。おびただしい群衆がみもとに集まったので、イエスは舟に乗ってすわったまま、海上におられ、群衆はみな海に沿って陸地にいた。 4:2イエスは譬で多くの事を教えられたが、その教の中で彼らにこう言われた、 4:3「聞きなさい、種まきが種をまきに出て行った。 4:4まいているうちに、道ばたに落ちた種があった。すると、鳥がきて食べてしまった。 4:5ほかの種は土の薄い石地に落ちた。そこは土が深くないので、すぐ芽を出したが、 4:6日が上ると焼けて、根がないために枯れてしまった。 4:7ほかの種はいばらの中に落ちた。すると、いばらが伸びて、ふさいでしまったので、実を結ばなかった。 4:8ほかの種は良い地に落ちた。そしてはえて、育って、ますます実を結び、三十倍、六十倍、百倍にもなった」。 4:9そして言われた、「聞く耳のある者は聞くがよい」。
4:10イエスがひとりになられた時、そばにいた者たちが、十二弟子と共に、これらの譬について尋ねた。 4:11そこでイエスは言われた、「あなたがたには神の国の奥義が授けられているが、ほかの者たちには、すべてが譬で語られる。
4:12それは
『彼らは見るには見るが、認めず、
聞くには聞くが、悟らず、
悔い改めてゆるされることがない』ためである」。
13. また彼らに言われた、「あなたがたはこの譬がわからないのか。それでは、どうしてすべての譬がわかるだろうか。 4:14種まきは御言をまくのである。 4:15道ばたに御言がまかれたとは、こういう人たちのことである。すなわち、御言を聞くと、すぐにサタンがきて、彼らの中にまかれた御言を、奪って行くのである。 4:16同じように、石地にまかれたものとは、こういう人たちのことである。御言を聞くと、すぐに喜んで受けるが、 4:17自分の中に根がないので、しばらく続くだけである。そののち、御言のために困難や迫害が起ってくると、すぐつまずいてしまう。 4:18また、いばらの中にまかれたものとは、こういう人たちのことである。御言を聞くが、 4:19世の心づかいと、富の惑わしと、その他いろいろな欲とがはいってきて、御言をふさぐので、実を結ばなくなる。 4:20また、良い地にまかれたものとは、こういう人たちのことである。御言を聞いて受けいれ、三十倍、六十倍、百倍の実を結ぶのである」。

Matthew 13:
1 The same day Jesus going out of the house, sat by the sea side. 2 And great multitudes were gathered together unto him, so that he went up into a boat and sat: and all the multitude stood on the shore. 3 And he spoke to them many things in parables, saying: Behold the sower went forth to sow. 4 And whilst he sows some fell by the way side, and the birds of the air came and ate them up. 5 And other some fell upon stony ground, where they had not much earth: and they sprung up immediately, because they had no deepness of earth. 6 And when the sun was up they were scorched: and because they had not root, they withered away. 7 And others fell among thorns: and the thorns grew up and choked them. 8 And others fell upon good ground: and they brought forth fruit, some an hundred fold, some sixty fold, and some thirty fold. 9 He that has ears to hear, let him hear.
10 And his disciples came and said to him: Why do you speak to them in parables? 11 Who answered and said to them: Because to you it is given to know the mysteries of the kingdom of heaven: but to them it is not given. 12 For he that has, to him shall be given, and he shall abound: but he that has not, from him shall be taken away that also which he has. 13 Therefore do I speak to them in parables: because seeing they see not, and hearing they hear not, neither do they understand. 14 And the prophecy of Isaiah is fulfilled in them, who says: By hearing you shall hear, and shall not understand: and seeing you shall see, and shall not perceive. 15 For the heart of this people is grown gross, and with their ears they have been dull of hearing, and their eyes they have shut: lest at any time they should see with their eyes, and hear with their ears, and understand with their heart, and be converted, and I should heal them.
16 But blessed are your eyes, because they see, and your ears, because they hear. 17 For, amen, I say to you, many prophets and just men have desired to see the things that you see, and have not seen them: and to hear the things that you hear and have not heard them.
18 Hear you therefore the parable of the sower. 19 When any one hears the word of the kingdom, and understands it not, there comes the wicked one, and catches away that which was sown in his heart: this is he that received the seed by the way side. 20 And he that received the seed upon stony ground, is he that hears the word, and immediately receives it with joy. 21 Yet has he not root in himself, but is only for a time: and when there arises tribulation and persecution because of the word, he is presently scandalized. 22 And he that received the seed among thorns, is he that hears the word, and the care of this world and the deceitfulness of riches chokes up the word, and he becomes fruitless. 23 But he that received the seed upon good ground, is he that hears the word, and understands, and bears fruit, and yields the one an hundredfold, and another sixty, and another thirty.


Mark 4
1 And again he began to teach by the sea side; and a great multitude was gathered together unto him, so that he went up into a ship and sat in the sea: and all the multitude was upon the land by the sea side. 2 And he taught them many things in parables, and said unto them in his doctrine: 3 Hear: Behold, the sower went out to sow. 4 And whilst he sowed, some fell by the way side, and the birds of the air came and ate it up. 5 And other some fell upon stony ground, where it had not much earth; and it shot up immediately, because it had no depth of earth. 6 And when the sun was risen, it was scorched; and because it had no root, it withered away. 7 And some fell among thorns; and the thorns grew up, and choked it, and it yielded no fruit. 8 And some fell upon good ground; and brought forth fruit that grew up, and increased and yielded, one thirty, another sixty, and another a hundred. 9 And he said: He that has ears to hear, let him hear. 10 And when he was alone, the twelve that were with him asked him the parable. 11 And he said to them: To you it is given to know the mystery of the kingdom of God: but to them that are without, all things are done in parables: 12 That seeing they may see, and not perceive; and hearing they may hear, and not understand; lest at any time they should be converted, and their sins should be forgiven them.
13 And he says to them: Are you ignorant of this parable? And how shall you know all parables? 14 He that sows, sows the word. 15 And these are they by the way side, where the word is sown, and as soon as they have heard, immediately Satan comes and takes away the word that was sown in their hearts. 16 And these likewise are they that are sown on the stony ground: who when they have heard the word, immediately receive it with joy. 17 And they have no root in themselves, but are only for a time: and then when tribulation and persecution arises for the word they are presently scandalized. 18 And others there are who are sown among thorns: these are they that hear the word, 19 and the cares of the world, and the deceitfulness of riches, and the lusts after other things entering in choke the word, and it is made fruitless. 20 And these are they who are sown upon the good ground, who hear the word, and receive it, and yield fruit, the one thirty, another sixty, and another a hundred.


Paul Simon, From "The Sound of Silence"(1964).
And in the naked light I saw
Ten thousand people, maybe more
People talking without speaking
People hearing without listening
People writing songs that voices never share
And no one dared
Disturb the sound of silence