2014年11月5日水曜日

演劇ワークショップのゲームの演じ方 歩く止まる ジャーマネゲーム 付箋ゲーム

2011年2月23日の蓮行「演劇ワークショップ入門-コミュニケーション力を引き出す」で実演されたゲームの演じ方を解説しています。その場の雰囲気と配置について、下記URLの写真で感じてください。

解説しているゲームはつぎの3つです。

●歩く止まる
●ジャーマネゲーム
●付箋ゲーム



20110223 By AN
【演技指導詳細】
1.日時
2
23日、14:0017:00
2.内容
ミステリーバスツアー方式(蓮行先生が企画)
3.講師紹介
蓮行先生
・大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任講師(常勤)
・劇団衛星代表
実際に劇団を率い、俳優、劇作家、演出家として活躍するだけでなく、演劇の手法を用いて人々のコミュニケーション力の向上をはかる取り
組みを行っておられる方です。
4.会場
オレンジショップ(基礎工学部I棟1階)

(一同、車座になって座る)
l  自己紹介

l  発声練習
奥義、「歩く&止まる」
ルール:手を叩いたら歩く。
地面につく足跡を踏まずに歩く。
もう一度手を叩いたら止まる。
人の様子を見ながら歩く。
(2回ほど歩く&止まるをする)
ルール追加:かっこよく歩くということを意識する。
(歩かせる)
ルール追加:1のルールに加えて、立ち止まるときに叩いた手の回数分の人数で集まって座る。集まった中であいさつをする。
(止まらせたあと、)
一度集まった人とはグループを組まない。
(1)
ルールのねらいを説明させる。
    意識をそらせるため。
         広く歩きまわらせるため。
         普段仲良くしているグループで固まらせ続けず、広く組ませるため。

(手を叩き、歩くを開始)
「一度集まった人とグループを組まない」のルールを廃止する。
(手を何度も叩く→全員で集まるということ)
   ↓
  全員が輪になって座る。
発声練習本番を行う。
(再び歩くを開始)
 止まるときに手を2回叩き、二人で組ませる。

l  一分ジャーマネ
舞台設定:近未来、就職活動をする人全員に一人ずつマネージャーがつく時代。マネージャーは担当する人の特性を知り、その人を適切な企業にアピールする。
(アピールの最初に、どの業界にアピールするのかということと、紹介したい人の名前を言う。
発表する組は前に出て、紹介される人が椅子に座り、マネージャーがその横に立つ。
マネージャーが1分間アピールをする。時間を計り、時間がきたらそこで切る。
1分のアピールのあと、企業役である観客に、就職する人を採用したいかどうか手を挙げさせる。)
1.先ほど手をたたいた時に集まった二人組を、就職活動をする人の役とマネージャーに分かれさせる。
23分時間をとり、その間にマネージャーは就職活動をする人から何が得意か、どんなことをしたいかなどの情報を聞き出す。
33分後、発表したい人から手を挙げさせて発表する。就職活動をする人が椅子に座り、マネージャーがその横に立って、1分間アピールをする。
41分後、観客に、紹介された人を採用したいかどうか手を挙げさせる。
53から4を繰り返す。
6.全員の発表が終わったら、マネージャー役と就職活動する役を交代させて、後半戦をする。

l  付箋プレゼン(商品売り込みゲーム)
     1.青と黄色、二色の付箋を各色一枚ずつ全員に配る。
2. 青い付箋に財・サービス、黄色い付箋に団体名を書かせる。
  ※糊の付いている側に書くこと。
3.ホワイトボードに付箋を青エリアと黄色エリアに分けて貼る。
4.参加者を所属の違うもの同士で3グループに分かれさせる。チーム名をい、ろ、はと名付ける。
51チームから代表者が一人、前に付箋をとりにいく。青と黄色から1チーム一枚ずつ取らせる。
6.チームは任意の団体として、自分の引いた青い付箋に書かれている財・サービスを自分の引いた黄色い付箋に書かれている団体に売り込むことになる。15分間、各チームで売り込み内容を話し合う。発表は5分間。
発表のルール:売り込む時、収支に関することと演劇要素を必ず入れ、チーム全員がなんらかのアクションをとること(しゃべらない人を出さないこと)
7.い→ろ、ろ→は、は→い、に売り込みをする。売り込む側は任意の団体、売り込まれる側は売り込む側の引いた黄色の付箋に書かれている団体になる。
売り込む側にも売り込まれる側にもならないチームは観客として第三者の目で発表を見る。
85分の発表の後、売り込まれる側が売り込む側に財・サービスについて質問をし、売り込む側はそれに回答する。
9.発表が終わったら、観客と売り込む側と売り込まれる側をローテーションし、次の発表をする。

10.すべての発表が終わったら、各チームは売り込まれた側として売り込まれた財・サービスを買うかどうかを話し合い、買う・買わないの決定とその理由を発表する。

2014年6月22日日曜日

授業は教え授けることという思い込み


ジョン・ハンターの世界平和ゲームの日本語解説はおかしい。「なぜ教室での授業よりも、自発的な行動や常に予期できないことばかりが起きる世界平和ゲームで深い学びが起こるのでしょうか。」ゲームや交渉は授業ではないという思い込みがあるのか。
http://www.ted.com/talks/john_hunter_on_the_world_peace_game?language=ja

「なぜ教室での授業よりも・・・深い学びが起こるのか」[1]といってしまうと、教室での授業が深い学びを起こさないように聞こえてしまう。そもそもこのゲーム自体も教室での授業で用いられているのだ。何でこんなことにこだわるのかというと、大学での講義形式の授業だけでは深い学びが起こらないのではないかと反省したからである。
英語版のTED(Technology Entertainment Design)の解説では「教室での授業」ではなく” classroom lectures”となっている[2]。つまり、教師が講義する形式の授業という意味である。英語の解説の言いたいことは、教室で世界平和ゲームを用いた授業をすることによって、教師の説明中心の授業よりも深い学びを生徒の中に引き起こすことができるということなのである。
「授業」を辞書で引くと、つぎのように「教え授けること」と定義している辞書もあるが、「生徒に習得させるために行う活動」という定義のほうがよい。世界平和ゲームも教室での授業といえる。

授業(じゅぎょう)
「[名](スル)学校などで、学問や技芸を教え授けること。「国語の―を受ける」「教科書なしで―する」「―時間」」デジタル大辞泉。
「教師が諸分野の知識,技能を生徒に習得させるために行う活動。講義や一斉教授など教師中心の授業が伝統的であったが,今日では新教育の影響で,生徒の自主性や経験が重んじられ,多様な授業方式がある。」 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典[3]

テッドの日本語版解説が授業という言葉を教え授けるという意味で使ったのは、単に英語翻訳がまずかったのか、それとも解説者の授業に対するイメージをあらわしているのだろうか。



[1] テッド(テディーベアの名前ではない)の「ジョン・ハンターの世界平和ゲーム」の日本語版解説は、つぎの通りである。「ジョンは、児童が世界平和ゲームにどのようにのめり込んでいるのかを話します。なぜ教室での授業よりも、自発的な行動や常に予期できないことばかりが起きる世界平和ゲームで深い学びが起こるのでしょうか。」
[2]  ”At TED2011, he explains how his World Peace Game engages school kids, and why the complex lessons it teaches — spontaneous, and always surprising — go further than classroom lectures can.” ”Teaching with the World Peace Game” http://www.ted.com/talks/john_hunter_on_the_world_peace_game.
[3] この2つの定義は、つぎの辞書で見ることができる。http://dic.yahoo.co.jp/.

2014年6月15日日曜日

相手の立場に立つことと調停とパートナー

 ミキハウスの木村社長のお話に、調停者(交渉)とメンター(リーダー)の役割に関して重要なヒントをみつけた。対話メモはまた紹介するが、要約すれば:人に聞かなくても相手方から自分をみたら何をしてほしいかを考えればよい。師匠に頼るよりオリジナリティ。相手の立場に立って考えると発見できる。

 受講生を評価しつつ授業中にとった自分用のメモなので[1]、発言の前後が抜けていたりします。補足しようとすると永遠にできなくなって、掲載するのも忘れるので、該当箇所をそのまま抜粋しておきます。

・フレッシュキャリアAさん:自分でか人に聞くか。
・木村:逆の立場。相手方から自分をみたら何をしてほしいか。健康であるなら、向こう側からみたらわかる。
・上斗米先生(東京会場):実行するためには健康。
・ベネフィットワンKさん:納期を守る。管理費、維持費、在庫管理は。
木村:Kさん、自分で覚えとかな。500人の電話番号を覚えた。必要だったから。
Yさん(名前が聞き取れず。所属を言った後がモジャモジャ)
・木村:言葉通じなくても欲しいものは欲しい。ブランドを作りたかった。行動せえへんところに問題がある。内職のおばちゃんやから縫うてくれた。
ギャップ社員:頼る師匠、指針は。
・木村:尊敬する人はいる。オリジナリティ。相手の立場に立って考える。子供服にこだわっていない。出版。ニーズに合った本を作ればすごい。


  交渉する人もリーダーシップを行使する人も、自分では気がつかない弱点があります。交渉における調停者(第三者)やリーダーシップにおけるパートナー(第三者ではない)は、自分では気がつかない弱点を補ってくれます。しかし、相手の立場で考え、相手の目に自分がどう見るかを想像してみることによって、調停者やパートナーの役割を代替することができる場合があるのです。
交渉に調停者を入れる利点についてはいろいろな見解がありますが、わたしが最も重要だと思うのはつぎです。ハーバード型交渉法(原則立脚型、利害立脚型、統合型、価値創造型、問題解決型、ウィンウィン型とも呼ばれます)では、自分の利害と相手の利害を分析して最適の組み合わせを見つけますが、調停者はこの分析と組み合わせ作業を促し(facilitate introspection)、相手方と共有する(facilitate communication)役割を果たします[2]
リーダーにとってパートナーが必要なのは、次のような理由からです。「だれしも他人の意見が必要となる気づかない点(ブラインドスポット)がある。だれしも他人におさえてもらわなければならない強過ぎる思い(パッション)がある。だれでもバルコニーに上って眺めてみる余裕を失うことがある。プレシャーが強くかかってくるときはなおさらだ。リーダーシップを行使する人はだれでも、自分自身と自分の役割を区別し、攻撃を誘発するような潜在的争点を洗い出すために助けが必要だ。[3]
第三者である調停者でも自分の「味方」であるパートナーでも、重要なのは自分が気がつかないことに気づかせてくれる点です。通常あまり強調されてはいませんが、気が滅入るほど難しい問題に取り組んでいる人にとって、自分の知覚、認知のバイアスを修正してくれる人がいると、その問題の隠れた原因や生じうる結果に気づくことができます。いわば世の中や世界の見え方を変えてくれる人といえるでしょう。
交渉でもリーダーシップでも、自分以外の利害関係者(ステークホルダー)の立場に立って考えることができる人は、自分自身の知覚や認知の狂いを自分で補正できる人だといえます[4]




[1]実践グローバルリーダーシップ201464日観察結果、東京パソナ本社より(大阪大学を会場とする遠隔講義)。
[2] Russell Korobkin, Legal Negotiation Theory and Strategy (Aspen Publishers; 2 ed., 2009), pp.331-332.
[3] Ronald A. Heifetz, Leadership Without Easy Answers (Belknap Press of Harvard U. Press, 1996), p.268.
[4] 「今、南部さんから、相手が何を求めているのかを想像してみて、それで自分の音楽を組み立ててみるというお話があったと思うんです。これは先ほど,私が徒弟として学んだその弁護士さんのありよう、人と向き合って話し合いをしていろいろな間窟解決をしていくという、その姿と非常に共通していると思うんです。」「人を動かす一交渉と音楽(上)」JCAジャーナル2007 105410p.58.
http://www2.osipp.osaka-.ac.jp/~nomura/profile/ronbun/jca2007.10.pdf.

2014年5月21日水曜日

よい論題の条件-アカデミックディベートと訴訟ディベート



                                               Ver.2014/05/21

1.はじめに
2.アカデミックディベートの論題分析
3.訴訟におけるディベートと論題分析
4.結論


1.はじめに

学生から合宿でのディベート用に、「わが社は、外国人労働者を一定数雇用し、公用語を英語にすべきである」という論題が提案された。この論題は、ディベートの論題としてふさわしいものといえるだろうか。
フリーリー2013は、13回も版を重ねた定評のあるディベートの教科書である。フリーリーは、よい論題は次の4つの特徴を備えていると整理する。

よい論題の特徴
   争いがあること 
   論点は1つに絞ること
   感情的な表現は避けること
   肯定側が望む決定を正確に記述していること

この論考では、フリーリーが主張する4つの特徴を、よい論題のための4つの条件としてとらえる。2ではこの4条件を冒頭の論題を中心に分析し、つぎに3で実社会におけるディベートの応用の典型として裁判所における訴訟を検討し、フリーリーの見解はよい論題の条件としては必ずしも適切ではないことを明らかにし、最後に4でその修正を提案する。

2.アカデミックディベートの論題分析

あなたの会社で、冒頭の主張に経営者が賛成し労働者が反対しているとすれば、①の条件の争いの存在は満たされている。しかし、争いの存在はディベートの論題の前提条件であって、論題の中身に関する条件ではない。
これに対して、②の論点は1つに絞ることという条件は、論題の中身、成り立ちに関する条件といえる。冒頭の主張は2つの論点を含んでいるから、この条件に照らせばよい論題とはいえない。経営者や社員のなかで、外国人労働者雇用に対する意見と公用語を英語にすることに対する意見の分布や割合は異なるはずなので、これらを論題として社内でディベートしても混乱が生じる恐れがある。
②の条件に従えば、この論題は「外国人労働者を一定数雇用すべき」という論題と「わが社は公用語を英語にすべきである」という論題に分けるべきである。2つの論題を別々にディベートするほうが、議論の混乱がなく効果的に決定ができるだろう。
さらに、肯定側がディベートに勝利して、「外国人労働者を一定数雇用すべき」ことが認められても、いつまでに何人雇用するかが決められていないので、肯定側が望む結果が正確に記述されているとはいえず、④の条件を満たしていない。
冒頭の論題をフリーリー2013の②と④の条件に従って修正すれば、「わが社は来年の新入社員の半数を外国人にすべきである」という論題と「わが社は来年4月から英語を公用語とすべきである」という論題に分けてディベートをすればよいことになる。もちろん、「新入社員」や「公用語」が何を意味するかをきちんと定義しないと、よいディベートにはならない。
最後に、フリーリー2013の感情的な表現を避けることという条件は、よい論題の条件としてはわかりにくい。フリーリーは、「いたいけない動物を無意味に痛めつけるサディスティックで残酷な実験は禁止されるべきである」という論題を、感情的表現がつまった悪い例としてあげる。そして、「生体解剖は違法化すべきである」という論題の方がよいと提案している。しかし、問題は表現が感情的かどうかではなく、それが人によって評価が異なりうる主観的な表現であることにある。
たとえば「優れた外国人労働者を雇用すべき」という主張はだれもが否定するのが難しいので、肯定側に有利である。しかし、この主張が認められても、実際の雇用者は優れていない労働者は採用しないだろうし、優れているかどうかは雇用者の裁量に任されているから、主張に「優れた」という表現を入れる意味はない。反対に、たとえば「残虐な、非人道的な刑罰」という表現は感情的であるが、「残虐な、非人道的な刑罰」の禁止は多くの国で広く受け入れられている(憲法36条、拷問等禁止条約参照)ので、感情的な表現であってもディベートの論題として悪いとはいえない。

原文
Characteristics of an Effective Debate Proposition
Controversy
●One central idea
●Unemotional terms
●Precise statement of the affirmative’s decision


3.訴訟におけるディベートと論題分析

ところで、以上の4つの条件が満たされているかどうかが実際的にも重要となる論題がある。訴訟における論題がそれだ。訴訟においては、原告が、被告に対して有する権利を裁判所に認めてもらうために訴えを提起する。たとえば、XYから中古車a100万円で買ったがYが引き渡さない場合に、X(原告)は裁判所に中古車aの引き渡しをY(被告)に対して請求する権利を認めてもらうために、訴えを提起する。Xは、「YXに対して中古車aを引き渡すべきだ」という論題を肯定する議論をし、これに対してYはこの論題を否定する議論を展開し、裁判所が勝ち負けを決めるのだから、訴訟はディベートの実社会における応用といえる(太田・野村2005)。
訴訟におけるディベートは、pという事実があればqという結論が認められるべきだという条件文の形をとる(p→q)。上の売買契約の例なら、p:「原告は被告から○年×月△日、中古車Aを買った」、よって、q:「被告は原告に対して中古車aを引き渡せ」となる。この「事実pのもとで結論qが認められるべき」という主張が、訴訟ディベートにおける論題といえる。
「p:XYとの間に中古車aの売買契約がある、よってq:YXaを引き渡せ」という論題の前提には、XYの争いがあり(条件①)、論点は「売買契約の存否」1つに絞られており(条件)、感情的な表現はなく(条件③)、肯定側Xが望む決定「XYからaを買った」と最終的な決定「YXaを引き渡せ」を正確に記述している(条件④)から、この論題はよい論題である。
もっとも、論点を1つに絞るという②の条件については修正が必要だと思われる。なぜなら、たとえばXが中古車aを所有していたのにいつのまにかYがこれを占有して乗り回しているという場合を考えよう。Xの所有権に基づく返還請求権としての引き渡し請求権に関するディベートの論題は、「p1:Xがaを所有しており、かつ、p2:Yがaを占有している、よって、p:YはXにaを引き渡せ」となる。つまり、論点はp1とp2の二つあり、②の条件が満たされていないが、法的には正しい論題である。
所有権に基づく返還請求権の論題に含まれているp1、p2という論点は、p1という論点が肯定され、同時にp2という論点が肯定された場合にのみ、qという結論が肯定される関係にある。したがって、よい論題になる条件②は、「一つの論点かまたは複数の論点の場合にはそれらが密接不可分の関係にあること」と修正できる。
冒頭の「外国人労働者を一定数雇用し、公用語を英語にすべき」という二つの論点は、いずれかを肯定または否定することが他方の論点に影響を及ぼさないので、密接不可分の関係にあるとはいえない。したがって、冒頭の論題はよい論題とはいえないのである。
 最後に、訴訟ディベートにおける論題をディベートする場合には、法的な論拠が重要となる。たとえば、「p:XYとの間に中古車aの売買契約がある、よって、q:YXaを引き渡せ」という論題を考えてみよう。pという事実とqという結論を結びつけるためには、「売買契約をしたら、売り主は買い主に対する目的物の引き渡し義務がある」という法的な論拠(warrant)が必要である。この法的な論拠の根拠(backing)は、日本では民法555[1]の規定であるといえる。
 このように、訴訟ディベートの特徴は、論題の論拠が法的なルールであることである。言い換えれば、訴訟におけるディベートは、「pという事実がある、よって、qという主張が認められる、なぜなら、Pがあれば一般的にQとなるべきという法的なルールがあるからだ」という法的な議論の構造を持つのである(下の図では、英国の哲学者トゥールミンにならって、pをData、qをClaimと表示している)[2]





4.結論

フリーリー2013が示したよい論題のための4つの条件のうち、②の論点は一つに絞ることおよび③の感情的な表現は避けることは、よい論題のための条件を正確に表しているとはいえない。よって、これらは次のように修正されるべきである。

よい論題の条件(修正)
   争いがあること 
   論点は1つに絞るか、複数の論点が密接不可分の関係にあること
   評価が分かれるような主観的な表現は避けること
   肯定側が望む決定を正確に記述していること



参考文献
□ Austin Freeley & David Steinberg, Argumentation and Debate pp.125-127 (Cengage Learning, 13 ed., 2013).
□ Stephen Edelston Toulmin, The Uses of Argument, Cambridge U. Pr.1958.2003.翻訳としては、戸田山和久・福澤一吉訳 『議論の技法-トゥールミンモデルの原点』10-11(東京図書、2011)がある。
太田勝造・野村美明編『交渉ケースブック』(商事法務、2005年)。
司法研修所編『新問題研究要件事実』1章、3章、5章(法曹会、2011年)。
司法研修所編『紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造』1章、6章(法曹会、2006年)。




[1] 民法555条は次のように規定する。「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」
[2] 法的議論と議論の構造およびトゥールミンの議論の理論については、次のブログ参照。http://nomurakn.blogspot.com/2011/02/blog-post.html.