2010年7月12日月曜日

わかりやすく伝えるために

大学のゼミ生に対するアドバイスを修正して掲載します。
Ver.2010/07/12


前回秘密保持契約の使い方について話して下さったS社長によれば、みなさんの質問力は社会人34年生より高いそうです。確かに進歩しました。しかし、他人にわかりやすく説明することはへたくそです。それは、「わかりやすく」とはどういうことかがわかっていないことです。秘密保持契約の勉強会でも電子書籍(Kindle)取引交渉のフォーマットに関する話し合いでもそう思いました。
みなさんだけではなく、政治家も公務員も、日本で育って教育を受けている人はみんなわかりやすく説明することが苦手です。なぜなら、みんな日本人なら、人間ならわかりあえるはずだという幸せなおそろしい前提を信じているからです(なぜおそろしいのか考えてみてください)。よく日米交渉がうまくいかなくなると、特使を派遣して「米国の理解を求める」ことが行われました。しかし、理解を求める(to seek understanding)ということばにはわからせようという意思が感じられませんし、理解してもらえば同意してもらえるという甘えがあります。
どの時代のどの階層の日本人が簡単に分かり合えたのかは分かりません。しかし、もし日本社会が多様化しているならば、「わかりあえるはずだ」という前提は通じないはずです。この前提で説明すると、重要な部分を伝えなかったり、相手に甘えて説明も甘くなりがちです。ではどうすればよいのでしょう。それは、相手は今までの成り行きをなにも知らない第三者だと思って説明することです。みなさんも、教師に「前回の授業で説明したじゃないか」といわれて困った覚えがあるでしょう。
同じ学生でも理解力も記憶力も違うのですから、いちばん分かっていない人でも分かるように説明する、これがわかりやすく説明するということです。わたしが「読んでもらえるメール」として、「それだけ読んだらわかるよう一目瞭然に書く。前のメールで書きましたようにとは書かない。」というのと同じです。口頭による説明は、聞いている人に具体的なイメージがわくように、頭の中に「絵」や話の流れが浮かぶようにする。無理なら、ホワイトボードにそのようなイメージや図を書いてみることです。もちろん、お互いの意見が理解できてからでないと、交渉もディベートも成立しないことはいうまでもありません。
最後に、演劇家の平田オリザ(大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授)の言葉を引用しておきます。
「二一世紀のコミュニケーション」は、「私とあなたは違うということ。私とあなたは違う言葉を話しているということ。私は、あなたが分からないということ。」から始めるべきである。平田オリザ『対話のレッスン』221

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