2012年1月30日月曜日

英語でビジネス会議と交渉を学ぶ授業―最近の学生は×××


2回生向けの英語で会議と交渉を学ぶセミナーが21日に終了。最終試験は、英国企業と日本企業との業務提携交渉に関するビデオドラマのワンシーン7分くらいをグループで上演したものを評価した。セリフを覚えて演じきった学生がかなりいたことと1学期で全員が見違えるように進歩したことに驚いた。
2012130

実はツイッターで書いた以上に学生の達成度に驚いた。正直若い頃は「最近の学生は」と愚痴ったこともあったが、最近は違う。今の学生は、われわれが学生のころと比べると「本当によーやるわ」。

台本の一部を紹介しよう。

Yasukawa  We have a proposal to make here, Mr. Parker. In return for exclusive licences, we would be willing to buy the magnets for world markets, direct from you, for a period of three years.

Hamilton  We appreciate your gesture, Mr. Yasukawa. At this stage, however, we do not see this as a viable option.

Parker  Let me add this. If we did license our products, Mr. Yasukawa, we would have to sell to the highest bidder.

Yasukawa    May I get this clear? Do you mean Hyperscan?

Parker   As I said, Mr. Yasukawa, it would be our very last option.

Yasukawa  Gentlemen and Mrs. Highsmith, we think that we have gone as far as we can go at this stage. Clearly, there's still a problem of-how do you say?-expectations here. If we can't agree about Europe, how can we talk about the world?



ベストパーフォーマーとベストロール賞の受賞者による上演
背景は実際のビデオドラマのシーン




最後に、ティーチングアシスタントのKHさんの記録をもとにNOMKNが作成した当日の進行。

121日土曜日
最終講義の場所は講義シアター。劇場とは変な名前と思うかもしれないが、講義はすべからく劇のようにあらねばならないという第2Deanの方針で命名された。今回の上映にふさわしいシアターであった。

(1)スケジュール
1.10:30-11:30   英語の耳と口の練習 & Unit5の内容と発音等の確認
            昼休み(1時間30分)
 2.13:00-14:10   パフォーマンス&フィードバック(チームDB
            休憩(10分)
 3.14:20-15:30   パフォーマンス&フィードバック(チームCA
            休憩(10分)
 4.15:40-16:10   まとめ

(2)パフォーマンスの順番
AからDグループ(名前)
 1.DOOSN
 2.BANOH
 3.CIKTY
 4.AKNHH

(3)特記事項
 1.配役等はチーム内で事前に決めておいた
 2.優秀なパフォーマンスをした者に各種賞を授与した
Best Performer (as Hamilton)Kさん(Aチーム)
2nd Best HamiltonIさん(Cチーム)
Best ParkerHさん(Bチーム)
Best YasukawaSさん(Dチーム)
Best HighsmithOさん(Dチーム)

 3.講義シアターの他に3部屋確保、昼休みの練習で使用
 4.全員に評価シート(添付ファイル参照)を配布、全員が全員の評価をした。
 5.ビデオ撮影→各チームの演技の撮影は失敗。ベストパーフォーマーとベストロール賞受賞者のみのベストチームによる上映のみ撮影できた。


THE END

2012年1月27日金曜日

説明上手と下手の違い


わかりやすく説明できる人とそうでない人の違いを最近発見した。説明下手な人はわからないことを人のせいにする。わかるはずだと思う。だから治らない。説明上手は自分が至らないからだと思う。学者でも大学院生でも秘書でも、いつも気をつけて相手の立場で説明しているから上達するのである。

仏教学者の中村元(19121999)先生のつぎの言葉は、わかりにくい論文や教科書を書く法学者になるほどと思わせるものだ。なにしろ、漢訳仏典ではわけがわからんというので多数(ご本人は「とびとびに撫でただけ」といわれる)の仏典をサンスクリット[1]原文から訳し直された方なのである。説得力がある。
「一般に、わかりやすく説くのが通俗的で、わけのわからないようなしかたで説くのが学術的であるかのように思われているが、これはまちがいで、わかりやすく説くのが学術的で、あいまいなままにしておくのは非学術的であろう。」[2]
 もっとも、いつか紹介した『ブッダのことば スッタニパータ』[3]はパーリ語聖典から翻訳されたそうだ。そこではなぜ漢訳語ではだめなのかの理由がつぎのように述べられている。
「もともとインドでは耳で聞いて口づてに伝承されていたものであるから、この性格をやはり保持したいと思った。耳で聞いても解らぬような漢訳語を使うことは、およそ原典の精神から逸脱している」[4]
法学者の想像を超えた学識で、参りましたです。

『ブッダのことば スッタニパータ』では、中村先生はブッダの「その生き生きとしたすがたに最も近く迫りうる書」(433頁)「歴史的人物としてのゴーダマ・ブッダに最も近いものであり、文献としてはこれ以上遡ることができない」(438頁)と説明されている。この記述からは、先生の「これは伝えねば」という意気込みと使命感が感じられるのではないだろうか。
日本の学者の論説や翻訳がわかりにくいのは、本当の語学力がないことに加えて、「伝えたいという思いが弱いから伝わらない」からだと書いたが[5]、日本にも中村先生のような本物の学者がいたのである。




[1] サンスクリットだけではないことは、後述。
[2] 中村元著 シリーズ「現代語訳 大乗仏典」全7巻の各巻についている「はしがき」より。
[3] 201183日水曜日http://nomurakn.blogspot.com/2011/08/blog-post.html.ワイド版岩波文庫、1991年。
[4] 前掲注(3)440頁。
[5] 2011611日土曜日「伝えたいという思いが弱いから伝わらない」http://nomurakn.blogspot.com/2011/06/blog-post.html.2010521日金曜日「弁護士と法学者の対話」http://nomurakn.blogspot.com/2010/05/blog-post_21.html.

2011年12月24日土曜日

グローバルリーダーシップとは何か

実践グローバルリーダーシップの最終講義で10月からの授業を振り返った。いつもいつか書こうと思って書けないでいることが多いので、大いに舌足らずだがパワーポイントのスライドを引用しておく。スライドのコメントは、話の概要と授業中に出た意見を加えたものである。




これまでの授業では、グローバル化とは何かやグローバル益とは何かについて、大いに議論をしてきた。しかし、教員が問いかける対話型授業(ソクラティックメソッド)も、問いかけばかりでは雲をつかむような話だと思われた受講生もいるかもしれない。そこで、今日はわたしの一応の見解を述べたあとで受講生の意見を聞き、今までの授業を振り返ることとしたい。






上のスライド2の1はグローバルリーダーシップを問題中心に定義したものだ。
スライド2の2の意味はファーストリテイリングの柳井社長が使われていたものと同じだと記憶している。

これらの2つの定義を足すと、グローバルリーダーシップとは、「国や地域を問わないで、人々に共通する問題を解決するリーダーシップ」といえる。

好例が、釈尊である。ブッダは人間が逃れられない苦しみからの解脱を解いて、たくさんの人々が彼について行った。そのリーダーシップは2000年の時を超えて現在の人々にも大きな影響力をもっている。ブッダの教えがきちんと伝わっているかは別問題だが。

しかし現在の地球では、四苦八苦のような人間にとって不可避と考えられた問題に加えて、人間の活動がすべての人に深刻な問題を引き起こしている。例2と例3がそれだ。





スライド3は、例2として欧州の債務危機を示す。深刻化する危機に向けて欧州が財政規律を強化する条約に合意したのだが、英国は国益や議会の権限が侵害されることを理由として、合意に参加しなかった。英国はもともと共通通貨ユーロ圏にも属していない。

国益を守るためにという理由で共同行為に合意しなかったり、さらに合意の実施に協力しない国が出てくれば、欧州の債務危機はもっと悪化するかもしれない。




スライド4のように、欧州の危機は域外の国の危機にもつながるのである。米国のリーマンショックが2008年以降の国際金融危機を引き起こし、国際的な大不況につながったのと同じである。国益を守るだけではグローバルな課題を解決することはできない。





スライド5は、地球温暖化(グローバルウォーミングだからまさにグローバルといえる)問題に関するものだ。

地球温暖化に取り組むための国連気候変動枠組条約の第17回締約国会議(COP 17)で何が起こったのか。2020年以降に京都議定書に変わる新たな枠組みを作ることには合意できたが、温暖化ガスについての京都議定書による法的な削減義務は2012年末で終了してしまう。

日本やカナダは京都議定書の延長に合意しなかったので、その後は法的な削減義務は負わず、自主的な取り組みをすることになる。米国ははじめから京都議定書に参加していないので、いまだに自主規制のままだ。島嶼諸国は「国が沈む」と主張しているが、まだ大丈夫だろうと思っている国が多いので、真剣な対策がとられないのである。







もしかすると、上のスライド6のように大都市が水没してしまうかもしれない。しかし、このような危機が来ることは科学的に証明されたわけではない。もし信頼できるデータによって世界の人々が地球温暖化がもたらす危機について共通の認識を持つことができれば、国益を超えたグローバルな対策が合意できるはずだ。それでスライド6のようにならないのなら、国益にもかなう。

欧州債務危機や地球温暖化の問題について、各国のリーダー達はグローバルなリーダーシップを発揮できないでいる。国内に基盤を有するリーダー達は、これらの問題が人類に共通の深刻な問題かどうかを国民に説得的に示すことができないので、グローバルな課題を訴えても「有権者」はついてきてくれないのである。








スライド7は、この授業のテーマである「人はなぜこの人について行くのか」の要素をまとめたものである。リーダーシップの要素をハードパワーとソフトパワーに分けることは議論の整理に役立つ。ハードパワーは、物質的な御利益で人を動かす力である。

社長等の権力者はこの力を持っているから、人がついて行くのである。しかし、ハードパワーが行き過ぎると、拳銃を突きつけて人を思い通りに動かすのと変わらなくなる。故キムジョンイルなどはどうだったか。脅かしや脅迫によって人についてこさせるのは、この授業で考えているリーダーシップではない。

この授業でたくさんのゲストスピーカーから感じ取って欲しかったのは、ソフトパワーの要素である。権力が無くても、アメも鞭もなくても、なにがあればこの人について行きたいと思わせるのだろうか。好きだから、信用できるから、尊敬できるからという要素が大切である。

もちろん、1つの課題を追求する情熱や勇気や実行力も重要である。尊敬や信用という要素は、情熱や勇気の結果として獲得されるのである。

しかし、すごいソフトパワーをもった芸術家や大学の教員がグローバルなリーダシップを発揮できるわけではない。授業ではいわなかったが、○○○金と力は無かりけりではダメなのだ。グローバルなリーダシップのためには、ハードパワーも必要だ。授業でも意見があった”give and take”の関係、利害の交換を示す力が重要だ。つまり、グローバルなリーダシップのためには、ハードパワーとしての利害に基づいた交渉力が必要なのである。

ハードパワーを行使できる立場にいる(権限がある)ことと、それを実際に行使できるかどうかとはまた別である。さらに、ソフトパワーがないとハードパワーを効果的に行使することはできない。反対に、権限がない市民でも、交渉力というハードパワーとソフトパワーがあれば[1]、グローバルな課題に挑むことも可能となるのである。


[1] ジョセフナイは、ハードパワーとソフトパワーをミックスした力を「スマートパワー」と呼ぶ。Joseph S. Nye ,The Powers to Lead (Oxford Univ Pr ,2008) at x, xiii, 83.








わたしが感銘を受けたスピーチは、エリックコロンさんのものだ。コロンさんが黒板に書かれた最初の絵は、青い地球だった。それはアポロ17号の乗組員が撮影した「ブルーマーブル」と呼ばれるようになったイメージに違いない[2]。この写真によって、人類の多くが地球を球体(グローブ)として真に認識したのである。


[2] The Blue Marble from Apollo 17, http://visibleearth.nasa.gov/.



エリックコロンさんがジャングルで出会い、助けられなかったという、飢えて死にかけている赤ん坊を抱いた母親。今の地球で起きている飢餓の問題は、自然災害というより人間の影響が大きい。われわれはグローバルなリーダシップを発揮できるのだろうか。

上のスライド8は、それより前のアポロ8号(月面着陸はいまだ成功しておらず、月の周回軌道にいた時代)によるもので、「地球の出」と呼ばれるシリーズの一枚だ。







では上の9枚目のスライドは何を映したものだろう。このブログでも認識できるのだが、地球がどこかに映っている。ボイジャー1号が太陽系の外、地球から40億マイルの距離から写した写真だ。

もはやグローブ(球体)でなく「点」としての地球。はるか未来にはグローバルリーダーシップでは狭すぎるという時代がやってくるかもしれない。ユニバーサルリーダーシップ(宇宙的または普遍的リーダーシップ)、それを講義しているのは人類ではないかもしれない。 




おしまい

2011年11月13日日曜日

創業者の条件


1026日に南部さん27日に鈴木さんの話を聞いて、創業者の条件を考えた。メモする暇もブログに書く時間もないのだが、不安定な時代であることと頼み上手なことが記憶に残っている。価値観がひっくり返ったりなんでもありという状況は創業に最適だ。あとは、頼む人と助ける人の相関関係で決まる。116http://twitter.com/nomurakn

南部さんの主張は、経済が悪い時代に企業家が出ている、今は悪い時代だから企業のチャンスだという若者を鼓舞するものであった。許可を得て下にデータを転載しておく。









ちなみに、鈴木さんがインターネットを知ったのもベトナム戦争やヒッピーの時代、なんでもひっくり返すという時代だったという。鈴木さんの話は[ご本人が意識される以上に]かなり過激なので、まだ別の機会にメモを整理して紹介したい。


だれでも創業者になれるわけではないが、起業の成否は頼むのが上手な人とよっしゃといって助ける人の間のケミストリーで決まるというのがわたしが得た仮説である。

2011年10月19日水曜日

農業と芸術による自立支援-ミッションの本気度をどう伝えるか


以前P社の農業と芸術で若者の自立を支援するプロジェクトをほめた。学生の感想を読むと、利益がちゃんと出ることを重視している。もうけているのではないかと思われることをおそれるよりも、全体としては利益が出るのだということを伝える方が、信用が高まるのかも。<http://twitter.com/nomurakn>2011/10/19

経営者のビジョンや企業のミッションが社員や社会に伝わるかどうかは、受け取る側がその本気度を信じるかどうかにある。いわゆるクレディブルコミットメントのケーススタディとして、学生によるプロジェクトの概要説明と感想文を紹介する。









感想文





法学部国際公共政策学科 3年 安川恭平さん


夏合宿における感想
今回、株式会社P様の施設に訪問し、活動の取り組みに実際に触れ、多くの
ことを学ぶことができた。私は二点に絞って学び取り、感じたことを書 きたい
と思う。

①チャレンジファームの取り組みについて
若者たちの将来の夢を実現していくために、Pグループでは農業の知識を教えて、自身の生活を養い、余った時間で自分の磨きたい芸能活動に取り 込んでいく「半農半芸」活動を推進している。生計を立てていくために農業に注力することにはとても興味を持つことはできた。しかしながら、農業を している方にお話を聞いていると一つ疑問が浮かび上がった。それは出来上がった製品の流通である。その方のお話を聞くと、質の高い作物ができる が、実際に売れる値段はとても安く、高品質なものを売っていくか、大量に作物を生産していかないといけないことである。作物の流通について調べてみると、たいていの場合は農協に運ばれて統一価格で売れてしまうため、収入にも限度があるということである。その打開策として、個人の方と契約を 結んで高い値段で買い取ってもらうしかない。Pグループのネットワークで個別契約の窓口を設けることはできるかもしれないが、チャレンジ ファームで働いている人が任期を終え、個別で養っていくことになると、いくら作物を生産できたとはいえ、得られる収入が途端に減ってしまい、従来 の芸能活動ができなくなるのではないかと思われる。

②農薬に関して
 農作業を手伝っている中で一つ、驚いたことがあった。無農薬作物の中にも発癌性のある物質が含まれていることである。これは学会でもアメリカの 学者エームスによって発表され、大きな影響を与え、今日でもエームスショックと呼ばれている。
http://www7.plala.or.jp/organicrose/ames.htm
よく売られている製品(特にキャベツやレタス)に部分で小さな穴が開いているのを私はよく見かけます。それは言うまでもなく虫たちが食べてしまった後であり、本来無農薬なら、虫もどんどん食べ続け、穴は大きくなっていきます。しかし、穴が小さいままであるのは、虫自身に影響を与える何かが 分泌され、鳥に見つかるのを覚悟してまでも他の葉っぱへ移動しなければならないということです。というのも作物自体も虫に食べられてしまうと、防 衛半農として、虫の嫌がる物質を分泌し、それが葉っぱへ届けられます。実はそれが発癌性を含む物質となっており、人体に害のない化学農薬をかけて いるよりももっと危険性の高い物質となっているのです。(上のURLを参考にしてください。)
 何故こういったことが今まで表面に出てこなかったのかというと、政治的な圧力がかかっているらしく、エームスの研究が誰によっても取り上げられ ず、無農薬野菜=人体に良いとうブランドがすでに構築されてしまっているということである。

普段あまり接する機会がなかった農業に実際に触れることができ、とても充実した経験を積むことができました。
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法学部法学科3年 貝原正美さん

まず、農業体験についてですが、私達はピーマンとオクラの収穫をしました。
その中で印象に残ったことのひとつめは、農薬のお話です。
虫に食べられると野菜が自分を守るために出す、自然農薬というものがあるため、必ずしも無農薬がいいとは限らない、という内容でした。「無農薬がいい」という固定観念を覆され、情報の必要性を感じました。
ふたつめは、農業をビジネスと捉えるということです。
大規模農場によってコストを抑えるというのも一つの考えですが、狭い日本では付加価値をつける方が有効だとおっしゃっていました。
例えば、時期をずらす・珍しいものを扱う・質を上げる…などです。質を上げる事に関しては長年農家をしている方に勝つのは難しそうですが、珍しいものを扱うことに関しては、アイデア次第で誰にでもチャンスがあり、農業をはじめるモチベーションに繋がるのではないかと思いました。

次に、P社の取り組みについてです。
私の周りには音大に進んだ人が何人かいて、リスクを覚悟で音楽を学ぶ人たちにとってこの制度はとても有りがたいものだと思います。
一方で、P社が何のためにやっているのか、ということを考えます。
会社理念にあっているから、というのもあるかもしれませんが、利益が見込まれないことを企業として行うのは難しいのではないかと思います。
すぐには思いつかないのですが…この取り組みが継続的なものであるよう、きちんと利益がでてほしいな、と思います。

最後に、合宿全体を通して。
料理もおいしかったし、淡路島の自然に触れられたし、何より、あまり話したことない人とも仲良くなれたように思います。
充実した2日間、楽しかったです。

法学部法学科3 大坪沙也香さん

 201198日から9日にかけて、N先生とゼミの学生数名で淡路島へ行き、合宿を行った。合宿全体を通して株式会社P様の協力を受け、農業体験から食事、移動に至るまで様々な支援をしていただいた。宿泊施設は、P社が取り組む「環太平洋プロジェクト」の拠点として作られた、C村の研修施設をお借りした。
 二日間の合宿で、海水浴やバーベキュー、ぶどう狩りなど様々な楽しい活動をしたが、最も印象に残ったのはC村での農業体験であった。C村はP社が運営する農業を通じての人材育成の場で、私たちは農業就業2年目の方からお話を伺うことができた。
その方に、日本がTPPに参加しようとしていることについてどう思うかと質問したところ、驚いたことに「自分たちにはあまり関係ない」とおっしゃった。農業経営が苦しくなり困る、といった回答を予想していたので、とても驚いた。その方によると、「新規就業の自分たちは、長年農業をしている人たちと戦うつもりはない。日本の農業は量では諸外国に勝てない。自分たちは、希少価値、付加価値の高い作物を作り、現行農業や諸外国とは別路線で利益を出していく。」ということだった。実際に、畑には塩味のするレタスや、赤いオクラなど珍しい野菜がたくさんあった。
 振り返ると、ゼミでTPPの議論をする際、私たちは旧態依然とした「弱い」農家を想定していたように思う。しかしC村で話を聴いて、それが偏った見方であったと感じた。もちろん日本には私たちが想定したような、小規模で老齢な「弱い」農家が多いのだろう。しかし、新規就業者を支援しようというP社の取り組みは、その現状を打開する力強いものだと感じた。今回C村を見学したが、「環太平洋プロジェクト」についてはまだよく分かっていないので、この経験をつなげてもっと学習してみたいと思った。

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法学部国際公共政策学科 3年 M.Iさん
[自分のこと]
私は、農業体験でオクラの収穫をしました。暑くて虫まみれで泥だらけになると思っていましたが、私の身長より高く成長したオクラに囲まれての収 穫作業は涼しく、気持ちが良かったです。実はたくさんなっていましたが、商品として売ることができるのはほんの一部だったためほとんどを捨てました。一緒に作業をして くださったP社の方は、農業は割に合わない仕事で生計をたてるのは大変だとおっしゃっていましたが、とても楽しそうに収穫をしていました。
サラリーマン から農家になり、幸せそうでした。今回の農業体験を通して、普段スーパーで何も考えずに野菜を買うことができるのは、作ってくれている人がいるからだということを実感できました。

[人のこと]
農業で自立するチャンスを与えるというP社の取り組みはとても重要だと思います。今まで農業といえば、代々引き継ぐもので儲からないものだというイメージがありました。しかし、P社の取り組みで家族の職業に 関係なく、農 業をしたい人が農業をすることができます。この取り組みで農業に従事する人が増えれば、郊外に若い人が増え、活気づくと思います。
一方で、私が農業体験をした畑では利益が出ていないとききました。また、チャレンジファームの取り組み全体をみても赤字だそうです。一緒に作業 をした方は、 開墾作業から生産物の袋詰め、販売までしなければならず、収穫以降の作業に時間と取られていると話されてしていました。私は、グループを作り、その中で農 作業を行う人、収穫以降の作業を行う人にわかれではどうだろうかと考えました。より利益がでるようになれば、この取り組みに参加したいという 人が増え、日 本が活気づくようになると思います。
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法学部法学科4年 平岡祥一さん
【自分のことについて】
僕は、オクラの収穫を行う班でした。実家でも農作業を良く手伝っているため、作業そのものについては苦に思いませんでした。しかし、だいたい人差 し指程度の大きさのものを刈り取るように言われたのですが、案外難しく、またそれより大きいものや曲がっているものは商品価値がないため捨てると いうのも「もったいない」と感じ、残してしまうことが多かったです。また、日差しの中の作業で、また腰を曲げることも多いので、日本のように年配 の方が多いことには不安を覚えました。

【人のことについて】
芸術活動を続けながら農作業で生計を立てるというプロジェクトは夢を諦めることなく、人生の幅を広げられるものであり、チャンスを広げられるもの であると感じました。
しかし、農作業中に聞いた話では、農業はやはり難しい分野であり、利益がなかなか出ず、厳しい状況にあるそうです。今後は法人化することも考えられているそうで、現実に推進していくのは難しいものだと感じました。
まだまだ支援、援助が必要だと思いました。

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法学部国際公共政策2年 中村清人さん

①農業体験に対する感想 
自分よりたくさんの経験をしている人たちと一緒に汗を流すという作業が久々だったので非常に爽快でした。一日だけの体験でしたが、Pの方々を 通じて農業に対する理解を少し深められたのではと自分の中では感じています。

P社の取り組みに関する感想
現在の日本の状況を見ていて、私はいつも若者のエネルギーが今の日本を変えるためには不可欠であると感じていました。P社で自分の目標に向かって努力している人たちを間近で見る事ができ、そのような姿に感心すると同時に自分も負けられないという気持ちを持ちました。自分も周りの人たちと切磋琢磨し自分を高めていくことが不可欠であると感じさせてくれ、自分にとって非常に有益な時間でした。
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法学部国際公共政策学科2  宮崎史織さん

1泊2日の合宿を通して、普段のゼミでは体験できない活動や交流ができ、ゼミメンバーとの親交を深めることができたと思います。P社、C村の方々のご協力により、有意義な時間を過ごすことができました。
2日目の午前中に、わずかですが参加させていただいた農業体験では、実際に作物に触れるだけでなく、農業プロジェクトに参加されている方のお話も聞くことができました。私はオクラの収穫の手伝いをさせていただきました。実際に栽培を行われている方が目の前にいて、その方が愛情をこめて育てたオクラを収穫するというのは、思った以上に緊張するもので、責任のある作業に感じられました。一緒に作業させていただいて、栽培にかけた情熱や、作物への愛情、出荷するものへのプライドや自信といったものを感じました。
この農業プロジェクトに参加されている方は年齢の幅も広く、大学卒業後に直接参加された方、東京で一旦就職して参加された方など、参加するまでの経緯も様々なようでした。お話を伺ったところ、作物の種の調達、畑の開墾、栽培はもちろん、収穫・出荷までの
一通りの作業を自分たちの手で行われていました。実際には農業プロジェクトによる利益は赤字で、理想通りにいかない現状や、プロジェクトを法人化してさらにビジネスとして利益重視の活動にする可能性があることなど、一目見ただけでは分からない社会に出て働くという難しさ、理想と現実のギャップを何となくですが感じられたように思います。
P社のC村のプロジェクトでは、芸術家を目指す人材の育成と淡路島の活性化という目的を結びつけた活動が行われています。C村のホームページによると、芸術をビジネスにするスキルの育成と、兼業芸術家として生活するための農業技術の提供をサポートしていて、指導にあたる方々も一流の方ばかりです。このようなプロジェクトは新しいスタイルだと思いますし、プロのアーティストを育成しながら、かつ地域の活性化が達成されれば、また次の大きな枠組みでの活動につながったり、他地域でのプロジェクト始動につながったりするのではないでしょうか。
P社の取り組みは私が今まで持っていた「企業」というイメージとは違うもので、とても興味深いものです。また実際にこのプロジェクトに参加されている方たちにお会いし、お話を伺えたことも、本当に良かったと思います。何か新しいものに取り組み、挑戦されている方々の姿はとても輝いて見えましたし、出会いやきっかけの大切さを感じました。今回淡路島での合宿で、C村の方々に本当に良くしていただき、また貴重な体験をさせていただいて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。また機会があれば、C村を訪れたいと思いました。
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法学部法学科3 大盛健司さん

【自分のこと】
まず農業体験は小中高と全く経験したことのなかったものだったので、わくわくして臨みました。そこで気がついたことが3点あります。まず1つ目ですが、ビニールハウス内の湿度の高さが予想以上だったことです。そこのハウスを管理していらっしゃる方にお話をお聞きすると、ハウスの特徴として、夏は暑く、冬は寒いというのがあるそうです。私はてっきり快適に作業できる場所がビニールハウスだとおもっていたので、常識がひっくり返されたような気分でした。
2つ目として、雑草を実際に抜いてみると見た目よりもとても量が多く、またひとえに雑草とはいってもとても種類が多かったということです。今まで全く注目しなかった事実に気付くことができました。3つ目として、先程雑草の多さとともにハウスの中に住む虫の多さがあげられます。クモやバッタに混ざり、虹色のカナヘビやカエルなどを見ることができ、大阪神戸といった大都市の対岸にこのような貴重な自然が残されていることを知りました。

【人のこと】
淡路島のような過疎地に目をつけて活性化に取り組んでいる点が大企業としては珍しいと思いました。昨今日本の大企業がグローバル化というスローガンのもとで、日本の各地から撤退をし、外国の市場や外国の人材を求めて海外展開を急いでいます。その中であえてその流れに逆行するかのように淡路島という過疎地でプロジェクトを成功させようとするというのはとても面白いところに目をつけたなと思いました。P社の取り組みの成果か、他の過疎地とは違い山奥においても若い方がたくさん農作業している様子をみることができました。後継者不足に悩む淡路島の高齢の農家の方々の技術承継にもとてもやくだっていると思いました。
またあの宿舎に集まる人はまさに老若男女、外国の方もいてとても多様性があり、そのような様々なバックグラウンドを持った人が活性化に向けて足並みを揃えて頑張ることでより大きな力となっているのではないかと思いました。
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法学部国際公共政策学科3年 中村光さん

 今夏、私の念願であったゼミ合宿を行うことができた。幸いにも当日の淡路島は天気に恵まれ、海水浴や花火、ぶどう狩りなどを存分に満喫することができた。何もかもが新鮮であった本合宿において、私は多くのことを感じた。以下、農業体験についてと、P社の取り組みについての2つに分けて述べる。
 まず、農業体験について述べる。農地に到着すると、我々は3つの班に分割された。オクラ収穫班、ピーマン収穫班、草むしり班である。残念なことに、私は草むしり班に配属されてしまった。我々の班に与えられた任務は、半年間放置したビニールハウスの雑草を除去するというものであった。さて、いよいよ現場に到着し、ビニールハウスの中を覗いてみた。背の高い、我々にとって絶望的な量の草が室内一面に生い茂っている。半年間放置しただけでここまで荒れ果てるものなのか。そして中に入ってみると、予想通りサウナである。さらに、数多くの昆虫やクモやトカゲが生息している。私は、自然の底知れぬ力強さを感じるとともに、農業はそれらと戦い、ときには利用し、共に生きていく仕事であることを改めて痛感した。それでも何とか作業を終え、休憩している最中、我々の面倒を見てくださった農家志望の若い社員さんにTPPについて質問をしてみた。すると、意外な答えが返ってきた。その方は、日本のTPP加入について賛成であるそうだ。その理由は、「開国」をすることで、自分たちのような新規参入者にも何らかのチャンスがくるのではないか、というものだった。私は、日本における農業の世界の厳しい現実を前に、たとえわずかでも良いから、かりに状況が悪化してもよいから、その現実が少しでも変化することを望んでいるのであろう若者の姿が非常に印象に残っている。
 次に、P社の取り組みについて述べる。本淡路島におけるプロジェクト(C村)は、芸術家としてのプロを目指しながら農業のスキルも身につける、という新しい兼業スタイルを提示するものである。私は、芸術家のプロを目指すことに伴う将来への不安に着目した、優れたビジネスモデルであると思った。すなわち、プロを目指す多くの人が感じるそのリスクを、P社が従来からの得意分野である農業によってヘッジすることを提案することにより、巧みに市場を切り開くことに成功したのである。この先、社員の方がどの道に進もうと完全に独立するまでサポートすることができたならば、事業としても安定するばかりでなく、農業従事者の増加へと結びつくのではないかと私は考える。
 以上のように、本合宿は実に有意義なものとなった。私は、P社の方々やN先生をはじめ、この合宿にご協力いただいた方々に深く感謝するとともに、この合宿で得た経験を糧に、日本の、自分の未来について考えていこうと思う。




以上

2011年9月4日日曜日

合理的な正解


昨日727日]の交渉研究会では、小学生に主人公の行動の理由や相手の立場を考えさせる教材の提案があった。これに対して、教育学の研究者は、小学校の先生は正解が複数あるような教材は使いたがらないという。その晩小林めぐみの小説を読んでいたら、「それは合理的な正解だ。」というせりふがあった。

7月にツイッターの続きをブログで書きかけて、途中で忘れてしまっていた。


教員は正解が複数ある教材を好まないという指摘に対して、企業法務の立場から茅野みつるさん(カリフォルニア州弁護士)が次のように発言された。ビジネス交渉では選択肢を創造的に増やすことが最重要であり、正解が一つというのは現実的でない。たまたま小林めぐみのSFを読んでいて「それは合理的な正解だ。」というせりふがあったので、そうそうその通りと思ったのである。合理的な正解は複数あるのだ。


人間界においては、ある問題に対して合理的な正解というのは複数ある。しかしそれが状況から見て最適の解かどうかはわからない。このことは、つぎの文脈から明らかになる。

地位や名誉もある地球保護委員会の長老が地球調査ミッションに志願したが、彼女が乗り込んだ宇宙船が撃墜された。
「まったく、人騒がせな女性だ。だからあれほど行かない方がいいと忠告したのに」
「だれが言っても狙われるのだから、自分で行くのが適当だとおっしゃっておりましたが」
「それは合理的な正解だ。結論から見た言いわけだ」小林めぐみ『地球保護区』49頁(ハヤカワ文庫、2009年)



正解が1つと教えたい教員は困ったものだ。現実の社会で使えない知識を教えてどうする。


そういえば昔英語学校と予備校で英語を教えていたころ、TOEFLに似た英語学校の講師採用試験でただ1人満点を取った先輩講師がいた。高学歴のネイティブ講師でも簡単には満点が取れない英語の総合力が試される問題だ。その先輩講師が予備校の英作文の授業で、英語ではああも言えるこうも言えると教えたら、学生から正解を教えて欲しいと注文があったという。


正解かどうかに最大の価値を置く教育が、わかりにくい答弁や人の感情を無視した説明を平気で繰り返すような企業幹部や官僚や学者を生み出しているのかもしれない。間違っているか間違っていないかではなく、効果的に伝わるか伝わらないかが問題なのだ。正解でも伝わらなければ意味がない。