2012年8月23日木曜日

ぼくは山へ登ってゆこうDie Harzreise von Heinrich Heine


よく引用される名訳ほど翻訳者がわからない。ファウストの「わが身にしかと納得せずには、人の心は動かせぬ」もそうだが、ハイネにもある。ぼくは山へ登ってゆこう 樅の木がそびえるところへ 小川が流れ鳥がさえずり大きな雲がわくところへ。『ハルツの旅』の訳でもこれが一番好きだ。名訳の宿命か。

最も近い出典はつぎのものだ。
ハイネ(「ハルツへの旅」より) 堀秀彦編『格言の花束」(社会思想社 現代教養文庫1958)48頁。堀秀彦さんの訳かどうかはわからない。ネットで検索すると、三角久美子『私の虹ノート』(文芸社, 2003年)17頁にも採録されていることがわかる。

日本語訳では「ぼくは山へ登ってゆこう」や「ところへ」の繰り返しが軽快なリズムとなっている。ハイネの詩の解き放たれた雰囲気を伝えているようだ。詩の冒頭では華やかな社交界の様子が描かれている。

きれいなパーティードレスで着飾った人々が社交辞令と抱擁を繰り返す。そこに心さえあれば。心に熱い愛があれば!もうその歌声は聞き飽きた。うわべだけの愛の苦悩は。


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ぼくは山へ登ってゆこう
貧しい小屋のあるところへ
自由に胸がうちひろがり自由の風の吹くところへ

ぼくは山へ登ってゆこう
樅の木がそびえるところへ
小川が流れ鳥がさえずり
大きな雲がわくところへ
---------------------
………………………
Auf die Berge will ich steigen,
Wo die frommen Hütten stehen,
Wo die Brust sich frei erschließet,
Und die freien Lüfte wehen.

Auf die Berge will ich steigen,
Wo die dunkeln Tannen ragen,
Bäche rauschen, Vögel singen,
Und die stolzen Wolken jagen.

..........................

Die Harzreise
Von Heinrich Heine
http://www.gutenberg.org/ebooks/24249

2012年8月21日火曜日

ファウストの翻訳者がわからん


あさのあつこ『No.6』の再引用をよく見かける。ネズミ君のファウストの朗読。「わが身にしかと納得せずには、人の心は動かせぬ。自分の魂から迸り出て力強く切々と語るのでなければ、聴く者の心は得られぬわけだ。」助手に「どうすれば書斎から雄弁で世界を動かせますか」と聞かれて答えた言葉だ。

ファウストはゲーテが書いた戯曲である。
Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832) 

ゲーテのファウストのドイツ語は難しい(最後に引用している)。
彼の恋の詩にくらべると。

英語の古い翻訳もドイツ語と同じように韻文で書かれていて難しい。

まずはクラインによる現代語訳を紹介する。それでも韻を踏んでいて、たいしたものだ。

助手のWagnerの問いの部分から引用する。


Wagner:
Ah! When a man’s so penned in his study, 
And scarcely sees the world on holidays,
And barely through the glass, and far off then,
How can he lead men, through persuading them?

Faust:
 You can’t, if you can’t feel it, if it never
Rises from the soul, and sways 
The heart of every single hearer,
With deepest power, in simple ways.
…………….

Goethe Faust Part I Scene I
A. S. Kline


ドイツ語原文

WAGNER:
  Ach!  wenn man so in sein Museum gebannt ist,
  Und sieht die Welt kaum einen Feiertag,
  Kaum durch ein Fernglas, nur von weitem,
  Wie soll man sie durch Überredung leiten?

  FAUST:
  Wenn ihr's nicht fühlt, ihr werdet's nicht erjagen,
  Wenn es nicht aus der Seele dringt
  Und mit urkräftigem Behagen
  Die Herzen aller Hörer zwingt.
..............................

The Project Gutenberg EBook of Faust: Der Tragödie erster Teil, by 
Johann Wolfgang von Goethe
http://www.gutenberg.org/files/14591/14591-h/14591-h.htm

2012年7月24日火曜日

福島第1原発事故---企業体質に依然問題あり


原子力損害賠償紛争解決センター、東電ささいな理由で争う。申請件数3036件、和解成立は289件。不当な遅れには賠償上乗せ:日本経済新聞http://s.nikkei.com/NJ25q3 紛争調停パネルの豊田弁護士らと研究会を開催します。http://www2.osipp.osaka-u.ac.jp/~nomura/project/hokyoiku/ke...

Reading:「災害大国」肝に銘じ対策を NHKニュース http://nhk.jp/N42i5mX4  政府事故調査・検証委員会報告で緊迫感と想像力の欠如が指摘された東電。「私ども自身が反省すべき点があるということであれば真摯に受け止めて対応させていただきたい」と会見。

東電の自社防衛のための行為や言葉自体が、津波への備えを怠った悪しき企業体質を現しているのではないだろうか。
原子力損害賠償紛争解決センターにおける東京電力の福島第1原発事故被害者に対する賠償の和解手続き(調停)が遅れたのは、東電側の代理人が和解提案に期限までに回答しない、対応の遅れについて十分説明しない、ささいな理由で争うなどしたことが大きな原因らしい。センターは76日、手続きを不当に遅らせた場合、和解金に年5%の遅延損害金を上乗せできる基準を新たに設けたと発表したのだ[1]
調停で仲介にあたっている弁護士達も、東電側代理人の頑なな態度を、訴訟に備えた戦略かもしれないが、少なくとも調停で和解に臨む態度ではないと批判する[2]
センターは「会社の方針に問題があるのではないか。東電は態度を改めるべきだ」と指摘している。東電は76日、こうした指摘に対し、書類の事査などに時間を要したと説明。「関係者を厳重に注意するとともに、和解案の尊重を社内で徹底する」とのコメントを発表したという。
政府の事故調査・検証委員会は、7月23日、最終報告を公表し、「大津波に対する東京電力の緊迫感と想像力が欠けていたことが、事故の重要な要因のつだ」と批判した[3]723日放送のNHK「災害大国」“肝に銘じ対策を”の会見で、東電はつぎのように述べている。
「内容をよく読まさせていただいたうえで、私ども自身が反省すべき点があるということであれば、真摯に受け止めて対応させていただきたい。[4]
法的責任を争うための一貫した戦略なのかもしれないが、こんな誠意がないおざなりな対応しかできない会社なら、津波への備えも津波直後の対応もできなかったのは当然かもしれない。
東電が自社を防衛するための行動や正当化するための言葉自体が、「大津波に対する東京電力の緊迫感と想像力が欠けていた」という企業体質を裏付けているのは皮肉なことである。


[1] 2012/7/6日本経済新聞電子版による。
[2] 紛争調停パネルの豊田弁護士らとの研究会を予定しているが、その結果は何らかのかたちで公表したい。http://www2.osipp.osaka-u.ac.jp/~nomura/project/hokyoiku/kenkyukaigaiyo.html
[3] NHK NEWS WEB 2012年(平成24年)724日[火曜日]アクセス。http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120723/t10013782021000.html
[4] 前掲NHK NEWS WEBの動画をnomuraknが文字におこした。

2012年6月6日水曜日

天変地異と宇宙線の影響?


樹齢1900年の屋久杉の年輪で宇宙線により生成される炭素14の量が西暦774-775年の1年間だけ平常時の20倍だった。 http://t.asahi.com/6sls 775年は、度重なる飢饉、蝦夷の反乱、鼠増殖、地震、白い虹が天にかかった、日照り、雹、長雨、日蝕、地震と大変だった。

この記事の引用を下に記すが、以上は直木 孝次郎他訳『続日本紀〈4〉』 (東洋文庫、1992)49-58頁を調べた結果だ。

名古屋大の増田公明准教授らの「研究チームは、過去に伐採された樹齢1900年の屋久杉の年輪に刻まれた宇宙線の影響を解析。宇宙線の影響で生成される特殊な炭素(炭素14)の量を調べたところ、西暦774~775年の1年間だけ、平常時の20倍に急増していた。
 短期間にこれほどの変化をもたらす宇宙の現象としては、星が一生を終える「超新星爆発」が地球の近くであったか、太陽で「スーパーフレア」があったか、いずれかの可能性が考えられるという。」
柴田一成・京都大付属天文台教授は「今回の研究をきっかけに、過去の記録を探す研究が活発になることを期待する」と話した。」(鈴木彩子)
www.asahi.com/science/update/0604/NGY201206030033.html

2012年6月3日日曜日

中世の世界観と近代の神がかり


末木先生は、中世の人達が見ていた世界は近代以降とまったく違っており、神仏とともにあり、夢に現れる神仏の実在を疑わなかったという。確かに親鸞もそうだったが、明治期でも出口ナオの神がかりが綾部近郊の庶民の信仰を集めて大本教に発展している。世界観を中央の歴史で語るのは危うい。→ブログ

同じ時代であっても中央と辺境の世界観は異なるのだ。周到な末木先生らしくないと思った。大本教(明治25年(1892))も天理教(天保9年(1838))もそれぞれ丹波国綾部(京都府)、大和国山辺(奈良県)という辺境で、神がかりの女性とそれを信じる庶民から広まったのである[1]

「中世の人達が見ていた世界は、近代以降とまったく違っていたのです。そこでは、神仏とともにあるのが当たり前であり、夢に現れる神仏が現実より実在的でないとは、誰も思っていませんでした。」
末木文美士(すえきふみひこ)日本仏教の可能性―現代思想としての冒険―』(新潮文庫、2011217

2012年4月8日日曜日

アジア連携アカデミア構想


遅ればせながら記録します。理由は後記。

2月に予定されているゼミ生のプレゼン大会の広報のために、彼らのパワポから共通点を抜き出してみた。アジア連携アカデミア構想(仮称) ビジョン 農業や芸術などの「行為」を通してアジアの未来のためにアジアの若者達との絆を強化する。

アジア連携のための人材養成の条件http://twilog.org/nomurakn/date-120408メモしていたら、「アジア連携アカデミア構想」http://twilog.org/nomurakn/date-120408をブログにアップしていないかもと思った(記憶力ゼロ)。もう少しまとまってからと思っていたからだ。拙速が大事。

アジア連携アカデミア構想(Project Academy for Asian Unity)
ビジョン 農業や芸術などの「行為」を通してアジアの未来のためにアジアの若者達との絆を強化する。 Our Vision: Enhance and promote unity of Asian students for the future of Asia and Pacific regions through common work and activities centered on agriculture and art. 

アカデミアの語:連合大学院とかとすると文科省の用語とかぶる。アカデミーとすると予備校みたい。アカデミアというとプラトンみたいでかっこいい。最初はサマースクールでよいと思うが、風呂敷は大きく。英語はAcademy でよいか。

共通意識や連携の訳
sol·i·dar·i·ty  /sɑ:ləderəti/ noun
: unity (as of a group or class) that produces or is based on community of interests, objectives, and standards
http://www.merriam-webster.com/dictionary/

a feeling of unity between people who have the same interests, goals, etc. 
▪ national solidarity ▪ The vote was a show of solidarity.
http://www.learnersdictionary.com/

若者にあたるよい英語がないので、student: learner or one who studiesという英語にした。

インドにこんなブログがあった。

2012年3月25日日曜日

蓮行「演劇ワークショップ」2012メモ


蓮行氏[1]による演劇ワークショップがNPO法人グローバルリーダーシップアソシエーション(GLEA)[2]による「コミュニケーション力ワークショップ」として開催された。時は2012 1 28 ()、場所は大阪梅田。
 以下は観察者の自分のためのメモである。今後の共同研究によって補足・修正していきたい[0326更新]。昨年の演劇ワークショップの概要は次の記事を参照。


[1]  http://www.eisei.info/rengyou.html .
[2] http://www.npo-glea.org/glea/.


当日配布された「蓮行流 演劇ワークショップ術プリント」にメモを書き込んでいる。□のあとの見出しは蓮行氏のものである。ファイルを提供していただいた蓮行氏に感謝。

Disclaimer 蓮行氏はプリント通りに講義をされたわけではなく劇をやってみる合間に説明されたので、見出しとメモが一致していない部分がある。また、ワークショップのノウハウを守るために、ワークショップの中で参加者に明らかにされた情報の一部は開示していない(単に記憶がないとかメモが間に合わなかったいう理由もあるが…)。蓮行流演劇ワークショップの全貌を知りたい方は、ぜひ実際に参加してみてほしい。平田オリザ氏との共著、『コミュニケーション力を引き出す~演劇ワークショップのすすめ』(PHP新書、2009年)も参考になる。



Nomurakn on「蓮行流 演劇ワークショップ術プリント」


□不親切グラフ(生産者と消費者)


教え方の親切度があがるほど、学習の達成度がさがる。



□ワークショップ(WS)とは?

Aclass or series of classes in which a small group of people learn the methods and skills used in doing something 
 a photography/music workshop
Merriam-Webster's Learner's Dictionary http://www.learnersdictionary.com/search/workshop

どっぷりつかると当たり前になる。
双方向、体験・参加型
演劇と民主主義/シアターゲーム
ゲーム:意図を知らさない。考える前に。


□@@情報

@@のところに何が入るか。
…解答は、実際のWSか、蓮行前掲書『コミュニケーション力を引き出す』を参照のこと。



負荷。自分を含めた関係性を俯瞰する必要がある。


□モジュール


声の大きさ、変化、パラダイムシフト


 □発声練習


  □バイパス効果

直接だと負荷がかかるので、ゲームでバイバス。音や視角に集中しているうちに、仲良くなれる。プロセスが楽しい。
→←文科省、指導要領。大学入試のための一点突破のための教育。解は1つ。
→←コミュニケーションには解がない。
学習の「ねらい」はもうけない。ねらいは必要条件に過ぎない。他の点の気付きもあってよい。
コミュニケーション=個人<環境 →コミュニケーション環境

□インプット>アウトプット
情報。どう言われたいか。相手の情報をどう引き出すか。瞬時にヒントを得て。

□メタ視点
鳥瞰、俯瞰。楽屋おち。[比較:ハイフェッツ:バルコニーにのぼる]お客目線。
客席から情報を得る。老人、子供が多いと上演時間が長くなる。[比較:ハイフェッツ:音楽とリーダーシップの類推。音楽家-聴衆/リーダー-フォロアー:聴衆は傍観者ではなく、音楽家に影響を与える。]


□ピント調整&共有能力


□共同注意


□コミュニケーション環境

しゃべれないのに盛り上げる。

□単純科学主義、単一目的主義、十分条件主義の諸問題

告白タイムから「泡沫裁判」へ[ワークショップでは参加者の告白に基づき、「トイレ逆流事件」が審理された]:多様な意見を集約(共通のゴールから逆算)してアウトプットする練習。(→単一目的主義ではダメ)
エリート高校生はこのような練習をしているらしい。エリートだけが教育を受けているのは問題。対策→演劇を作る。ゴールは決定。合意形成。

今後の夢:「泡沫裁判」の発展型として、立法過程を劇化できないか。法を合意して作っていく。





広報用パンフレット(表裏)